映画レビュー『SLUM-POLIS』(2015)

たった今劇場で観てきて衝撃的だったので思わずレビューを書きます。4年の小海です。

今回紹介する映画は、二宮健監督『SLUM-POLIS』(2015)。

SLUM-POLIS

この映画何が凄いかというとまずこの二宮健という監督がめちゃくちゃ若いです。1991年生まれ、僕のたった2個上。

二宮監督がこの映画を撮ったのは21歳だというので今の僕と同い年ですか、いやあ凄いねぇ。

ちなみに作品は大阪芸術大学の卒業制作とのこと。大阪芸大の卒制といえば熊切和嘉監督『鬼畜大宴会』(1998)を思い出しますが、相変わらず大阪芸大の卒制はよく人の死ぬ傑作を撮ってます。最高だぁ。

若いから凄いって訳じゃなくて、とにかくクオリティが高いです。これは商業映画のレベルだ!というくらい映像が綺麗!

あと映像が綺麗だから凄い!って訳でもなくて、映画の内容も監督の個性が詰まっていて、言葉にし尽くせない「勢い」がそこには感じられます。

簡単にあらすじを載せると、

2041年、南海トラフ大地震後の西日本。復興の進んでいない地はコミューン地区(通称=スラムポリス)と制定され、スラム化が急速に広がり事実上無法地帯となっていた。第三コミューン地区に住む青年ジョーとアスは、ある日、絵描きの娼婦アンナと出会う。奇妙な友情で結ばれていく3人は、それぞれの夢のために巨大暴力団の麻薬輸送車の襲撃を計画するが、それを機にスラムポリスを渦巻く闇の抗争に巻き込まれていく・・・。(『SLUM POLIS』HPより)

といった具合です。

この映画の「勢い」、例えるなら園子温監督『BAD FILM』(1995)くらい勢いがあります。とにかく良い意味での若さを感じるし、若い人が観ればなおさら良さが分かると思います。

BAD FILM

音楽も良いです。というかMVか!というくらい音楽多めでとても楽しいです。

以前は自分で曲も作ってたという二宮監督、流石です。

ちなみに監督、「学生なのに」とか「若いのに」という褒められ方が嫌いだととあるインタビューで語ってます。分かるなぁその気持ち。

たぶんこの映画観て「若いのに凄い!」って褒めてたらその人はもう老いてます。

むしろ「こりゃ挑発だな!」と意気込んでやりたいもんです。

この映画に登場する街「スラムポリス」。そこは都市部から離れたいわば「地方」です。

二宮監督が大阪芸術大学というところで、この映画を撮っていて、都市部と地方という二つの世界の比較を描いたのはきっと意味があったのでしょう。

かくゆう我々北大映画研究会もまた札幌という一つの地方で映画を作り続けています。

自分たちにしか撮れない何か、それを考える大切さをこの映画から受けた気持ちがしました。

映画を観て感じた「若さ」、その正体は監督の持つ「その人にしか」「今でしか」描けない感覚だったのかもしれません。

僕もそんな映画を今だからこそ撮ってみたい。

そう思った21歳、小海でした。

ちなみに北海道はディノスシネマズ札幌劇場で11月13日まで公開中です。あっという間なのでお見逃しなく。

『八仙飯店之人肉饅頭』レビュー(池田)

完全ネタバレ

八仙飯店之人肉饅頭(原題 八仙飯店之人肉叉焼包、英題 The Eight Immortals Restaurant: The Untold Story)

1993年香港

監督:ハーマン・ヤオ

脚本:ラオ・カムファイ

製作:ダニー・リー

撮影:ツォ・ワイケイ

音楽:ウォン・ボン

出演:アンソニー・ウォン、ダニー・リー、ラウ・スーミン、シン・フイウォン、エミリー・クワン、パクマン・ウォン、エリック・ケイ、ラム・キンコン他

あらすじ

1986年マカオ。海岸に腐乱した人間の手足が打ち上げられた。警察の捜査で行きついたのは、中華料理店の経営者ウォン(ウォン)。彼は抵抗と黙秘を続けるが、連日の取り調べと囚人からの暴行に耐えかね、ついに自白。恐ろしい真実を語る。

レビュー

感想を書こうかずーっと迷っていた作品。中国返還前の香港で生まれた衝撃作。殺した死体の肉を饅頭にして売るというプロットはおろか、実話を基にしたというのがすごい。香港猟奇ホラーの金字塔といえる。主演を務めたアンソニー・ウォンは、その演技から1994年度の香港電影金像奨(香港版アカデミー賞)で主演男優賞を受賞した。(こんな映画で取れるのがまた怖い)

本編が開始していきなり、麻雀の賭けをめぐって男2人がケンカ。主人公の男は相手を叩きのめし、灯油をかけて火をつける。オープニングクレジット前でもう悲惨。

場面変わって海岸。腐乱した手足が発見され、警察が捜査にやってくる。ここでメインとなるのが、やたらノリが軽い刑事4人組。まるでバラエティのコントのようなやり取りを終始繰り広げる。映画の凄惨さを和らげているつもりなのだろうが、いかんせんスベっている。彼らのボスの警部役は本作プロデューサーのダニー・リー。いつも娼婦を連れている。紅一点の刑事は警部に惚れており、アプローチするもまったく気づいてもらえない。ストーリーに関係ないラブ要素。

マカオの一角にある料理屋「八仙飯店」。豚を解体する、坊主頭にメガネの大男。彼が主人公のウォン。挙動、言葉、態度がいろいろヤバい。職を求めてきた男をわずか10秒の面接で雇う。繁盛しているのに店の権利を手放したがっているが、前店主の署名がないため売却できない。一方警察では、中国本土から八仙飯店店主の捜索願が届く。BGMがホンワカしている。

主人公は賭け麻雀が好きで、いつもイカサマをして勝っているが、新しく雇った男に見られてしまう。ある夜、彼は男を伝票刺しとお玉で殺害。死体を解体して肉を肉饅の具にして販売する。饅頭の調理工程はしっかり見せる。骨はゴミ袋に入れてポイ。手際はいいが、たぶん手を洗ってない。その人肉入り饅頭を客は食う。

相変わらず警察には捜索願が届く。海岸の手から採取された指紋から、被害者は八仙飯店前店主の義理母と判明。八仙飯店に警察が調査に来る。主人公は愛想よく振る舞い、饅頭をサービス。署に戻った刑事たちは実に美味そうに饅頭を食べる。八仙飯店では第二の犠牲者が出る。主人公は警察に「本土から手紙がよく来る」と証言した女性店員を強姦し殺害。○○○に箸を刺すという鬼畜の所業。不快感しかない。

依然として警察パートはグダグダだが、八仙飯店に関する不可解な事がいろいろ分かってくる。今度は警部が直々に飯店に乗り込み主人公を尋問。しどろもどろな態度が怪しまれ、主人公は国外逃亡を図るも、張り込んでいた刑事と出国直前で派手な大立ち回りを演じた末に逮捕される。

前半のほのぼのした感じとは打って変わって、刑事たちは取り調べで主人公を殴る蹴るの暴行。完全にリンチ。主人公は隙をついて、集まっていた報道陣に痣と傷を見せ、警察は大バッシングを受ける。怒った警察は彼を前店主の弟がいる刑務所に強制収監。警察の発想が鬼である。囚人たちからも壮絶なリンチ(一人だけリンチに加わらない囚人は壊れたメガネを直すなどメッチャいい人)。

耐えきれず主人公は自殺を図る。鉄板で手首をギコギコ、そして血管を噛みちぎる。実にグロい。そこまでやったのに死にきれず、病院に搬送されて再び刑事たちから過酷な尋問。彼に暴行を振るわれた看護師は彼の背中に水を注射。水ぶくれがたくさんできて、仰向けになると激痛が走る。「人権」という概念がない。

寝かせてもらえない主人公はついに自白。ここが本作のハイライト。前店主一家皆殺しの回想シーン。賭け麻雀の支払いがもつれ、主人公はブチ切れ。一家全員縛り上げ、中華包丁で惨殺。その内5人は幼い子供で、もう見ていられない。子役の成長に支障をきたしたのではないか。死体は解体し饅頭の具にする。映倫の規定に引っかかったのはこの場面のせいに違いない。真相を知った刑事たちは嘔吐。唯一食べなかった警部は「食べなくてよかった」と他人事。実刑が確定した主人公だが、誰も彼を裁けなかった。獄中で手首を空き缶のタブでえぐって自殺したからである。そしてエンドロール。後味が実に悪い。

アンソニー・ウォンが演じる主人公の恐ろしさとインパクト、これに尽きる。1996年にはアフリカでエボラに感染した男が香港で菌をまき散らすホラー『エボラ・シンドローム』で主演。猟奇的な役ばかりと思ったら、『インファナル・アフェア』『メダリオン』『頭文字D』『ハムナプトラ3』など、ドラマやコメディにも多数出演している。内容も演出も酷い映画だが、カルト的に語り継がれる伝説の作品。どうでもいいが、出国直前のシーンでドラえもんのぬいぐるみが映っている。たぶん偽物

「チキン・オブ・ザ・デッド」レビュー(池田)

チキン・オブ・ザ・デッド 悪魔の毒々バリューセット(原題 Poultrygeist: Night of the Chicken Dead)

2006年アメリカ

監督:ロイド・カウフマン

脚本:ガブリエル・フリードマン、ダニエル・ボヴァ、ロイド・カウフマン

製作:アンディ・ディーマー、キール・ウォーカー

音楽:ドゥギー・バナス

撮影:ブレンダン・フリント、ロイド・カウフマン

出演:ジェイソン・ヤチャニン、ケイト・グレアム、アリソン・セレドフ、ロビン・L・ワトキンス、ジョシュア・オラトゥンデ、ケイレブ・エマーソン、ローズ・ギャヴァミ他

あらすじ

ネイティブアメリカンの墓地跡にフライドチキンのチェーン店がオープン。レジ担当のアービー(ヤチャニン)は客や同僚の相手に四苦八苦。そんな中、先住民の魂と鶏の怨念が店内の食材に憑依。呪われた料理を食べた人々はゾンビになる。

レビュー

1974年に設立、80年代頃から数多くのスプラッターコメディを作ってきたトロマ・エンターテイメントが手がけた作品。「人間の体から出るもの全部映しとけ!」のノリで非常に下品で悪趣味、当然ながらR-18。外食産業をキツめに風刺し、歌って踊るミュージカル。

先住民「トロマホーク族」の墓地で童貞を捨てようとする主人公(と言っていいのか)。地面から死者の手がウジャウジャ出るが気づかない。覗き見する変態があらわれ、気分を害した彼女は帰ってしまう。変態は肛門から口まで手を貫通される。タイトル前でこの酷さ。

その墓地跡にできたのが、フライドチキンチェーン「アメリカン・チキン・バンカー」。動物愛護を唱える反対派の猛抗議の中、オープンする。この直前にやって来る、「みんな呪われる!」と騒ぐ男は、明らかに『13日の金曜日』の警告する老人のパロディ。店内の食材は即座に呪われる。緑の粘液にまみれた卵、揚げられて悲鳴を上げるチキンと嫌悪感あふれる。厨房担当の従業員は個性が強すぎる面々。この状況を疑問に思うも営業を続け、調理工程が雑すぎる。調味ソースが下水みたいな色。

来客第一号は超肥満体の男(演じるのはトロマ映画の常連ジョー・フレイシェイカー)。呪われた卵を食べた瞬間腹を壊してトイレに直行。個室内を汚物まみれにしてなぜか”脱皮”してしまい、「痩せたぞ!」と歓喜して帰っていく。この時点でまだ本編開始20分くらい。

鶏の嘴と脚を砕いてひき肉を作っていた店員が、チキンに突き飛ばされてマシンに転落、自身がひき肉になる(この店員の魂は後にハンバーガーに憑依)。血まみれの厨房の中、チェーン店設立者の将軍(たぶんカーネル・サンダースのパロディ。”カーネル”(大佐)ではなく”ジェネラル”(将軍))はそれでも営業続行の指示を出す。獣姦嗜好の店員はチキンに股間を噛まれ、助けようとしたムスリムの女性店員のせいでモップの柄が下半身を貫通する。血の量が多すぎる。

緑色のフライドチキンを食べた人々は次々とゾンビに変身。気色悪い鶏ゾンビになった設立者が店長の頭を噛みちぎるのを皮切りに大殺戮がスタート。厨房にある調理器具が凶器と化す。文章にするのも嫌になる。こんな状況でもミュージカル調である。

監督のロイド・カウフマンは未来の老いた主人公の役で登場。なぜここでSF要素が絡むのかまったく分からない。還暦を迎えてもスプラッター映画製作に精を出しているのがすごい。

トロマの人体破壊ギャグに少しでも抵抗がある人にはとても勧められない

【春新勧ブログリレー】恋愛映画特集第一回「本当の恋は切り花のように」『アニー・ホール』

今晩は。土曜日の夜が一番好きな西浦です。

恋愛映画特集の幕を切る作品はウディ・アレンの代表作『アニー・ホール』です。皆さんと同じく私もこの映画は大好きで何度も見ていますね。昨晩、高峰君と鑑賞し直したので準備もばっちりです。では、いきましょうか。


1997年、アメリカ 監督 ウディ・アレン 出演 ウディ・アレン ダイアン・キートン

アニーホール

 

「僕が屁理屈だって?世の中、馬鹿や間抜けばかりじゃないか。落ち着いてなんかいられるか。子供時代の環境のせいかな。差別されたんだ。しかたないだろ。かまわないでくれ。みんな、どーせ死んでしまうんだ。人生なんて悲惨で惨めなもんだよ。そんなもの、期待しないのが一番だ ・・・・・・わかった。謝るよ。妄想だった ・・・・・・ところで君はセクシーだね。素晴らしいよ。倒錯的ですらある。好奇心をくすぐるね ・・・・・・」

ウディ・アレンといえばいつもこんな調子だ。 ハゲで背は低いし、おまけにいつも早口で理屈をこねている。いかにも女性が嫌がる男の代表だ。実生活では身を滅ぼすほどに浮気な男であるようだが(詳しくはミア・ファローとの確執を調べてね)、アレンは「もてない男」が主人公の映画を沢山作ってきた。自分が本音のところではうじうじした人間だと認識しているのだろう。そして、40作を超えるウディ・アレン作品の代表作に当たるのが今回の『アニー・ホール』だ。

本作はニューヨークのコメディアン、アルヴィー・シンガー(ウディ・アレン)とジャズシンガーのアニー・ホール(ダイアン・キートン)の数年間の恋を描いたロマンスコメディだ。2人は『アニー・ホール』以前に私生活のパートナーであった。キートンの本名はダイアン・ホールであり、二人の恋を誠実に分析した映画だ。

映画はアルヴィーの長い独白から始まる。アニーとの別れを後悔し、何が悪かったのかと自分に問うアルヴィー。私たち観客は理解する。これから始まるのは、終わってしまった恋の物語だ。どこが駄目だったのか。彼と一緒に考えることになるのだ。

「第2次大戦中、ブルックリン育ちの明るい少年でした」

アルヴィーの回想が始まる。

「宇宙は膨張してすべては無に帰る。宿題なんて無駄だ。」

母親に病院へと連れられたひねくれ者のアルヴィー少年。

「宇宙とブルックリンが何の関係があるの!」アルヴィーママが叫ぶ。

「宇宙が破裂するまでは何十億年もあるさ。それまで楽しまないと損だ。」医者は大笑いをする。人生の短さや虚しさは、ウディ・アレンの根源的なテーマだ。

「ローラーコースターの下での暮らしのせいで神経質になったんだ」

振動の中で育った少年のいたずら心は学校でも発揮される。

「6才のときに女を知った」

好きな女の子に突然キスをして先生に叱られるアレン。

「今月2回目よ。この恥知らず!」

「健全なる性的好奇心だ。」

現在のアレン(教室の椅子に座っている)が回想の中で先生に反論する。とてもコミカルで『フェリーニのアマルコルド』のようである。

フェデリコ・フェリーニはアレンの敬愛する映画作家だ。『アニー・ホール』は終始、フェリーニの『81/2』のように連想つなぎで映像が流れていく。ここでは時間や空間は関係ないのだ。アルヴィーとアニー達が過去のアルヴィー少年を訪ねるというシーンもあったりする。

さらにはキャラクターが観客に向かって話しかけてくる。

 

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アルヴィーとアニーで映画を見に行くシーンでは、連れの女性にフェリーニの批評をするいかにもウディ・アレンが嫌いそうなインテリが登場する。

「フェリーニを見たが駄目だね。技巧的すぎる。」

いらいらしだすアルヴィ。

「発作がおこる。」

「聞かないで。」

アニーに諭されるアルヴィー。インテリのひけらかしは止まらない。

「マクルーハンも言ってることだが・・・・・・」

「こんなときあなただったらどうしますか?」

アルヴィーは突然、観客に尋ねだす。

「自由の国だ。好きに言わせろ。」

インテリまでもが話しかけてくる。苛立つアルヴィは何とすみの方からマクルーハン教授   本人!を引っ張り出して、インテリを屈服させてしまう。

「いつもこう上手くいけばね。」

またも、観客に共感を求めるアルヴィー。

見ている方は何が映画のリアリティなのかがわからなくなってくる。変な気分だ。アルヴィーに任せて、彼の回想に付き合うしかない。このシーンで本当はフェリーニを出したかったのだろう。断られてしまったのか。

アルヴィー=アレンは映画冒頭でマルクス兄弟のジョークに影響を受けたと話す。観客と映画の間にある、演劇で云うところの第4の壁を壊してしまう演出はグルーチョ・マルクスの十八番のギャグだ。アルヴィーはグルーチョの「私を入れたがるクラブには入りたくない」というジョークを引用する。

「このジョークは僕の女性関係のキーだ」

ユダヤ人は長らく社交クラブに入れて貰えなかった。入れるのは同じユダヤ系のクラブばかりなのだろう。アルヴィー=アレンは典型的なユダヤ系だ。

アルヴィーは自分を到底受け入れてくれない女性ばかり求めてしまうのだ。           「本当にあこがれるのは『白雪姫』の悪い女王だ」                           アニメ『白雪姫』の中でアルヴィーは女王を改心させたがる。

メガネで三頭身の小男はどう見ても悪の女王にはつりあっていない。

ベットでアニーにスキンシップするアルヴィー。アニーは本に夢中でかまってくれない。

「今日は駄目よ。明日は仕事があるから声を休ませないと。」

「最近ご無沙汰だ。昔は昼も夜もやってたのに。」

「倦怠期よ。誰にでもあるわ。あなた、結婚してたんだからわかるでしょ。」

アニーと出会う前、アルヴィーは2回結婚していた。

最初の妻は選挙応援事務所で出会ったアリスンだ。卒論の資料を集めているという彼女をアルヴィーはおちょくる。

「君はニューヨーク左翼ユダヤ系でインテリびいきの大学生のお嬢さんね。」

「ああ、ごめん。また馬鹿なこといっちゃた。」

アルヴィーは自分がインテリユダヤだと思われることをアニーに嘆いていたのに口では真逆のことを言ってしまう。同属嫌悪。しかし、アリスンは気にしたそぶりもない。

「いいの。皮肉を言われるのは好きだから。」

彼女もアルヴィーの気持ちがわかったのであろう。アリスンは美人でインテリで変人でもあった。アルヴィにはぴったりだ。

しかし、アルヴィーは彼女との生活に耐えられなくなってくる。

「私とのセックスを逃げてるのね。」

アリスンにずばり指摘されるアルヴィー。図星だった。

「彼女は僕にぴったりなのに。どうしてだ?」

「”私を会員にするクラブには入りたくない”の気持ちか」

巨大な自意識のために人生を楽しむことができないアルヴィー。

 

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逃げたロブスターを捕まえようとするアルヴィーとアニー。このシーンの二人は本当に楽しそうだ。アドリブでないかと思うほど自然な笑顔をしている。愛し合っていたものだからこそできる顔だろう。もっとも仲が良かったころの二人だ。

アルヴィーはアニーと結婚する気はない。同居も嫌がっていた。

何故か?映画が進むにつれ、アルヴィーの気持ちは痛々しいほどわかってくる。

二番目の妻はロビン。社交的でスノッブな典型的な裕福なユダヤ人だ。             出版者や文化人を呼んでのホーム・パーティで悪態をつくアルヴィーは、教授たちが議論をしている後ろでセックスにおよぼうとする。

「腹いせのセックスなんていやよ。」

「外には『ニューヨーカー』の編集者がいるのよ!」

またしても上手くいかない。アルヴィー=アレンが嫌いなものは何か。それは自分自身だ。  自分を入れてくれるクラブを嫌悪してしまう。つまりは『ニューヨーカ』のような知的でユーモアのあるところは嫌なのだ。

ウディ・アレンの一般的な印象はまさに『ニューヨーカー』なのだが。アレンをスノッブだと批判する人は多い。しかし、彼のスノッブさは自分を守るためである。

アニー・ホールは過去の妻たちとは違っていた。アニーは田舎育ちで純朴だ。いつも笑顔で陽気な彼女。格好も独特で男物のパンツやジャケットにネクタイを締めている。今見てもおしゃれだ。

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友達のロブ(トニー・ロバーツ)の紹介で出会った二人。自分とまったく異なるアニーにアルヴィーは惹かれていく。橋の言葉で愛の言葉をべらべらささやくアルヴィー。

「愛してるじゃ足りないね。アイ ラーブ。アイ ローブ。いやアイ ローフ。愛の強調だよ。」

「ばかね・・・・・・愛してるわ。」

このやりとりはこの映画の核心だ。愛情は言葉で尽くせるものではないのだ。アルヴィーは言葉や知性に勝るものがあることがわからない。このときから二人の関係は破綻するしかないことは見えていた。

アルヴィーはアニーを本当に愛していた。

「本当の恋愛」は相手に期待をかけて幻想を抱きまくるものではないか?互いに立ってる足場を掘り起こしていくのが恋愛だろう。いつかは二人で立てなくなって壊れるしかない。失われるからこそ美しく尊いのではないか。

恋愛は人生を凝縮したものとはいえないか。一人では成立しない上にあっけないものだ。

恋のない世は味気ない。けれどもいつまでも同じ味では飽きてしまう。

古代のギリシャ神話で神々と人間を隔てるのは死であった。人間は死すべきものであるから飽きずに生を楽しむことができる存在として描写される。恋愛も同じく生き生きとしたものだ。

二人の恋はどこでだめになってしまったのか。『アニー・ホール』は恋愛という生き物の観察記録でもある。

アルヴィーはアニーを教育し始める。フェリー二やベルイマンを見せるし、本を読ませる。大学や精神分析にも通わせる。素直な彼女はどんどんと成長していく。ついにはアルヴィーを追い越し、反発するようになる。二人の仲に亀裂が入ってくる。

自分で大学に通わせといて、もう通うなと口論するアルヴィー。変われない自分に焦り、苛立ち、嫉妬する。幻想の彼女と現実の彼女がずれだした。自分を愛し、憎むアルヴィーはアニーの期待に答えない。逆にアニーに自分の幻想を押し付ける。アニーはアルヴィーのなりたい自分の投影だ。陽気で無邪気な彼女はアルヴィーのあこがれだった。

「あなたはニューヨークの孤独な島よ。」

アニーはアルヴィーの独りよがりを咎める。

「精神的なオナニーをしてるだけよ!」

「オナニーをばかにしないでくれ。僕にとっては愛する人とのセックスなんだ。」

こんなに悲しい台詞があるだろうか。アルヴィーは愛する自分を捨てられないのだ。

いよいよ、アニーはアルヴィーのもとを離れてロサンジェルスへと旅立つ。

ロスは未来を生きるものの街だ。晴れ晴れとした、突き抜ける青空。

二人の恋という花はついに枯れた。映画はラスト、アルヴィーとアニーが再開するところで終わる。アニー=キートンの歌に合わせ二人の思い出が流れていく。

アニーへの思いや感謝、そして謝罪とともに映画は幕を閉じる。

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『アニー・ホール』は終わるしかなかった恋を描いた傑作です。失敗だからこそ私達の心に迫ってくるのです。アルヴィー=アレンは最後に人は卵を残したいから恋愛をするんだと言いました。卵が何であるかはもちろん人によって違うのでしょうが。

卵は孵り、また新たな卵を残します。恋愛は人間の壮大な叙事詩でしょうか。人が生まれては死んでいくように、恋もはじまり、そしておわる。『アニー・ホール』という卵の後に多くの恋愛映画が生まれました。次回以降ではそんな映画を紹介していこうと思います。

長くなりました。最後です。私はこの映画から恋愛における一つの目標を見出しました。   私は彼女のもとから「自分が必要でなくなる日」を夢見ていこうと思います。

まだまだアルヴィーほどに自意識が強いのでゴールは遥か遠くです。とほほ。

ではでは。第二回もよろしく。

テストがあるので更新は月曜日かな。ごめんなさいね。

西浦直人

[春新勧ブログリレー]「苦いもんだね。恋愛映画特集~予告編~」 

どーも、春新勧ブログリレー土曜日担当の西浦直人です。

体調不良で一日遅れてしまいました。やはりこの時期は育った九州の季節の感覚が北海道での生活とずれてきて体も頭も不調です。春はまだでしょうか。もう冬物とおさらばしたいです。

来週には新1年生が続々北大にやってくるんですね。私のときは入学式が吹雪でした。また後輩が増えると思うと楽しみです。いよいよ私は4年で最高学年です。えっへん。

んっで、ですねタイトルにある通り、私の記事では全5~10回の連載形式で「恋愛映画」について書いていこうと思います。読者は主に男性を想定しています。女性の人は私よりも恋愛についてご存知でしょうから「男ってこう考えるのね」と笑ってあげてください。

以前書いた「終電車」の記事と同じように詳しいストーリーも書いていくのでその映画を見ていない人も楽しめるかと思います。前半ではアメリカ映画の一つの潮流である「奥手な男のための非モテ恋愛映画」を扱い、後半では特に私の好きな映画を語るつもりです。以上が企画説明です。

さてさて、先日、2014映研ランキングを発表しました。票の集計をしていて映研では恋愛映画の人気がないということに気がつきました。話題に上がるのはサド的なエロチシズムを題材にした映画ばかりで「恋愛映画」好きの私としては不満が残りました。甘いものや苦いものどっちも必要なのが人間の生ではないでしょうか。私たちは遺伝子の乗り物なだけではないはずです!恋愛映画を軽んじる気持ちは恋愛への期待をスポイルしてしまいます。

そこで私の好きな、また学ぶところの多かった映画を取り上げてこの風潮を打破したいと思い、この企画を始めました。あんまり春新勧とは関係ないですね。

困ったことに多くの男たちと同じく私も恋愛がちっともわからないのですが、理解できるまで何度も恋をするわけにもいきません。結婚してから妻以外の人を好きになってしまうのはいいことでも何でもない不幸です。実生活での恋愛はなかなか強烈で楽しいことも嫌なこともあったし、これからもあるでしょう(今彼女を探しているぞっ)。

数に限りがあるならどうするか。映画を見ればよいと思います。「恋愛映画」は過去の経験の投影先であるだけでなく、人生の予行演習だったり、別の人生を想像するきっかけとなります。そういったところが映画の面白さです。この楽しさを恋愛映画が苦手な人にも伝えていきたいと思います。私自身も「恋愛」というものをもう一度考える機会にしたいです。

では次の土曜日から第一回始めていきますよ。励みになるのでコメントよろしくお願いします。

初回はやはりウディ・アレンの「アニー・ホール」です。映画見てない人は予習しておくとより楽しめるかと思います。DVDだったら私持ってますよ。では、乞うご期待!

西浦直人

北大映画研究会 2014年ベスト(1位~5位)

さあ、いよいよベスト5を発表いたします!

意外な作品が入ってますよ。


5位 スパイク・ジョーンズ監督 her/世界でひとつの彼女

her

見る人それぞれの恋愛体験を反映してしまう作品だけにくらった部員も多かった様子。    上級生からの高い評価がありました。一年生でベストに入れた人はいなかったようです。   きっと、ピンとくるときが来ますよ。笑


4位 ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ監督 ベイマックス

ベイマックス

これは意外な作品でしょうか。現在も大ヒット中のベイマックスが1,2年部員の厚い支持を受けてランクイン。作り込まれたアニメ世界とベイマックスの愛らしさに心打たれたのでしょう。反面、「アナと雪の女王」は23位という微妙な結果でした。


3位 クリント・イーストウッド監督 ジャージー・ボーイズ

ジャージー・ボーイズ

去年映研で最も評判になった作品だけに当然の順位ではないでしょうか。「ブロンコ・ビリー」や「センチメンタル・アドベンチャー」に連なるメタフィクション映画でありましたが、アメリカ映画への愛着にかかわらず、人気を得ていました。


 第2位 マーティン・スコセッシ監督 ウルフ・オブ・ウォールストリート

 ウルフ・オブ・ウォールストリート

こんなゲスな映画が2位でいいのでしょうか。映研の男どもの熱狂的支持がありました。女性票はほぼゼロ!んーんーんと胸を叩く真似が映研ブームになりました。去年一番サークルないで見られた映画でしょう。


 

 第1位 デヴィッド・フィンチャー監督 ゴーン・ガール

ゴーン・ガール

元々ファンも多いフィンチャー監督だけあって、圧倒的票数で1位になりました。女性部員からの評価が特に高かったです。「女なめんな!」というメッセージでしょうか。「ウルフ~」に夢中のみんな気をつけましょうね。

 

以上、2014年に北大映画研究会で話題になった映画ベストテンでした。すべて洋画という結果になりましたね。例年邦画も上位に入っていたのですが、意外な結果となりました。世間的に評判の「紙の月」や「そこのみにて光輝く」は部員にはいまいちだったのでしょうか。なんにせよ今の北大映研の好きな作品は これということです。上位作品については分析記事を近く載せていきたいと思いますのでお楽しみに。ではでは

西浦直人

北大映画研究会 2014年度ベスト(6位~10位)

少し遅くなりましたが、北大映研部員からの投票を元に

2014年度公開映画のベストテンを発表いたします。

なお、投票人数は34人でした。ご協力ありがとうございました!

では10位から6位まで


10位 ジャン=ピエール・ジュネ監督  天才スピヴェット 

天才スピヴェット

女性部員を中心に高い支持がありました。札幌公開が年末であったことを考慮すると大健闘といえます。札幌では3D公開がなかったことが残念でした。


9位 フィル・ロード、クリストファー・ミラー監督 LEGO ムービー

LEGO ムービー

レゴブロックがストップモーションのように動く、驚きのCGアニメがランクイン。男女を問わず人気に。一時期、映研の話題を独占していました。


 

8位 ジョシュア・オッペンハイマー、クリスティーヌ・シン監督 アクト・オブ・キリング

アクト・オブ・キリング

世界の映画祭を席巻した映画史に残るドキュメンタリー映画が北大映研でもベスト入り。   札幌では短期間の公開でしたが、見た部員は皆絶賛していました。


 

7位 ウェス・アンダーソン監督 グランド・ブタペスト・ホテル

グランド・ブタペスト・ホテル

 

北大映研でも屈指の人気があるウェス・アンダーソンの作品が学年を問わず高評価。     札幌ではシアターキノのみでの上映でしたが、満席の大賑わいでした。


6位 クリストファー・ノーラン監督 インターステラー

インターステラー

サークル内で賛否が分かれましたが、SF超大作のインターステラーがベスト入り。10人の部員からの投票がありました。 CGを極力使わないノーラン監督のフィルム主義には皆が脱帽しました。


 

以上10位から6位まででした。どうでしたか?皆さんの好きな作品は入っていたでしょうか。

どの作品も話題になったものでしたから納得といった感じではないでしょうか。個人的にはひねくれてない映画ファンのランキングになっていて良いんではと思いました。

5位から1位までの作品はまた明日、発表いたします!何が入っているのでしょうか?

ちなみに投票された作品の数はなんと100作品近くありました。皆さん好みが全然違うようです。

西浦 直人

 

 

 

「ザ・スタッフ」レビュー(池田)

ザ・スタッフ(原題 The Stuff)

予告編

1985年アメリカ

監督、脚本:ラリー・コーエン

製作:ポール・カータ

音楽:アンソニー・ゲフェン

撮影:ポール・グリックマン

出演:マイケル・モリアーティ、アンドレア・マルコヴィッチ、ギャレット・モリス、ポール・ソルヴィノ、スコット・ブルーム、ダニー・アイエロ、パトリック・オニール他

あらすじ

発売されるや大人気、アイスのようなヨーグルトのような不思議な食べ物”スタッフ”。その製法を知りたいライバル企業は、産業スパイとして元FBIのモー(モリアーティ)を向かわせるが、関係者の失踪、成分不明の原材料とおかしなことばかり分かってくる。実はスタッフの正体は地面から湧き出る生命体だった。食べた人間を操り、スタッフは侵略を開始する。

レビュー

B級映画でカルト的人気なラリー・コーエン監督のSFホラー。アイスクリームが人を襲うという突飛な設定がユーモラスでバカバカしい。食べ物襲来系の先駆け『アタック・オブ・ザ・キラートマト』や、宇宙から来た殺人スライム『マックイーン絶対の危機』や『ブロブ』を足して2で割った感じ。

ジョージア州ミッドランドの採掘場から湧き出た白い物体。それを見つけた作業員は何のためらいもなくパクリ。「こりゃ美味い。売れるぞ!」。開始1分でこのトンデモ展開。物体は”スタッフ”と名付けられ、商品化されて大ヒット。味の虜になった人々は買い漁る。自宅の冷蔵庫でスタッフが動くのを目撃した少年は不審感を募らせ、スーパーに陳列されたスタッフを壊しまくるという「一人暴動」を起こす。BGMも相まって笑える。

劇中で何度か流れるCMは、センスも費用も徐々にグレードアップ。スタッフの売れ行きをCMで表すというのが面白い。

スタッフを食べた者は体内を乗っ取られ人々を襲うようになるのだが、中身が柔らかいので脆すぎる。パンチ一発で頭が崩壊するが、飛び散るのは白いクリームなので怖くない。

スタッフの製造過程の実情が汚い。地面から湧き出る物体をタンクに吸い上げ、そのまま工場でパックに詰めて売る。こんなのがまかり通るというのがいかにもB級。大量生産・大量消費の風刺だろうか。

話が進むにつれ、スタッフは『ブロブ』のように大きな塊で積極的に人を襲うようになる。ここで出てくるのが、主人公の知人の、古城に住む私設軍隊。ここら辺からガラッと変わる。軽快な音楽の下、製造工場で銃撃戦が行われ(直前に出るトラック運転手の帽子のロゴが、日産自動車のダットサン)、「何の映画だったっけ?」と思わずにいられない。この軍隊が面白い。リーダーの大佐(ソルヴィノ)はロリコン、移動方法はタクシー。

工場を壊滅させた主人公一行はラジオ局を占拠。国民へ「スタッフは危険だ、食うな!」と呼びかける。前半での中毒状態だった消費者の描写もあるので、もうひと波乱あるのかと思いきや国民たちは放送を信じて暴動。スタッフを火に放り込み、製造関連者をリンチ、販売店を爆破。そして爆破の巻き添えになるマクドナルド。事態の終息をコンパクトにまとめすぎ。ラストはこの手の映画によくある展開。悪の根源を絶やせてない。

ダニー・アイエロが出ていたのが驚き。(前半で出番終了した)

主人公の知人、チョコチップ・チャーリーの役回りが意外。生き残りそうなポジションだったが、一番酷い最期を迎えた。

音楽が好印象。全体的にギャグがきいている。『キラートマト』は途中で鑑賞を放棄したが、こちらは全編鑑賞。決してA級ではないが、なぜか引き込まれる。

豆知識

スーパーの店員にエリック・ボゴシアン、エンドクレジット直前にパトリック・デンプシー、工場の工員にポール・ソルヴィノの娘ミラ・ソルヴィノがクレジットなしで出演

2014年好きなものいろいろ

映画ベストに引き続きその他のベストも発表します。2014年に出たものに限定しています。

漫画


 

あれよ星屑:山田参助

あれよ星屑 1

 

この作品はコミックビームに連載開始時点から面白いとお勧めしてしたものですね。兵隊やくざな門松と川島の生き生きとしたやりとりがとても魅了的です。作者はゲイ漫画界で活躍されていたらしく達者な絵を描かれています。メリハリがついた絵で戦後東京の混乱したでも温かい貧しさをうまーく見せています。こんな漫画家がいたとは。コミックビームもさすが。現在2巻まで発売しているところ。マンガは高峰君に貸してます。


 

ドミトリーともきんす:高野文子

ドミトリーともきんす

「絶対安全剃刀」や「黄色い本」で漫画通に知られている高野文子先生の新作です。これはとても話題になったマンガですね。本屋さんでもよく目にしました。空想の学生寮「ともきんす」に偉大なる4人の科学者、朝永振一郎先生、牧野富太郎先生、中谷宇吉郎先生、湯川秀樹先生が住んでいるという幸せなお話です。私たち若い世代にはあまり知られていませんが、寺田寅彦先生を代表に戦前の大科学者は優れた随筆を多く残されています。

本作では四人と寮母さんとその娘の淡々とした交流が描かれえます。何度読んでも飽きないつくりですから4人の著作を読んでもいいし、マンガって何だろうと科学チックに考えてもいいんですね。マンガ表現の巧みさに驚きます。これも高峰君に貸してます。


 

 

ムシヌユン:都留 泰作

ムシヌユン 1

ビッグコミック・スペリオールで連載中のSF、エログロ、ギャグマンガです。27歳童貞の主人公が南の島でへんてこな虫にかまれて変身(というか変態)する「寄生獣」に似た話ではあるものの岩明均のようなスピード感や読みやすい構成になっていない分、どんなはなしか先が読めません。本来だったらわかりにくくて飽きられそうなんですが、無視はできないマンガとしての力があります。読み手として寄り添うところがないマンガですが、続きがとても気になります。


五色の舟:近藤ようこ

五色の舟

これも何度もお勧めしましたね。「あれよ星屑」と同時期にコミックビームで連載された作品です。近藤ようこ先生はベテラン漫画家で題材選びも挑戦的で筋が通っているため毎回楽しみなんですが、本作も美しくやわらかい絵で異形の家族を描ききっていると思います。

大衆文化にどっぷりの私なんぞが何をいわんやですが、日本の文化の良さは曖昧でゆらゆらしたところ、つまりあちらとこちらの狭間に見出せるんではと思ってます。ともすれば消え入ってしまいそうな線と日常と非日常のあわいを演じることで日々の糧を得る見世物小屋の家族たちがとてもマッチしていて、ゆれる小舟に乗ったような読後感がありました。

2014年は個人的に先の大戦についてこだわっていたので今は亡き先輩方への鎮魂のような気持ちで読みました。近藤ようこ先生は現在コミックビームで折口信夫の「死者の書」をコミカライズされています。


 

夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない:宮崎 夏次系

夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない

このマンガはすでに紹介した作品と比べると趣味的です。サブカル的だと言われそうですが、私は宮崎 夏次系が好きなのです。まず女の子がいい。私は女の子がポカーと口をあけているところに愛らしさを感じるんですが、宮崎 夏次系に描く女の子はどこか抜けているんですね。そのヘタウマな感じに惹かれるのです。お話はナンセンスコメディでとことん馬鹿馬鹿しい、変でしょうと奇をてらったところもあるんでまだまだ進化の余地もあります。本作は短編集なので当たり外れもありますが、読みやすい作品だと思います。


 

以上が漫画で去年何度も読んだものです。漫画は映画ほど頑張って数を読んでないので他にも良いものはあると思いますが、私のお勧めです。

 

書籍

私は小説を余り読まないので14年出版の小説について何かお勧めすることは出来ません。ここでは14年に出た本の中から面白かったものを紹介します。


 

資本主義から市民主義へ:岩井 克人 (著), 三浦 雅士

資本主義から市民主義へ

 

私は高校時代にヴェニスの商人の資本論を読んで以来、岩井克人氏のファン(適切な言い方なのか)なのですが、本書では貨幣の存在支えるのはただ貨幣のみという一見びっくりな岩井理論の現時点での成果が三浦氏との対談を通してまとめられています。

岩井理論の射程は貨幣から言語、法までを貫くもので理系の私には読み解くのが難しいのですが、貨幣、言語、法は私たちがそれらの存在を信じているからこそ成立する建設的虚構だというのはとても納得出来ます。へんな話、人間っていいなと思いました。映画だって本当はうそっぱちだけど人間はフィクションを信じていれば辛くたって生きれますよね。頭がいい人って深いなあとおバカな感想を持ちました。


 

トリュフォー 最後のインタビュー:蓮實 重彦 (著), 山田 宏一 (著)

トリュフォー 最後のインタビュー

 

以前ブログでも書いた通り、去年はトリュフォー没後30年でした。それにあわせて以前のインタビューを集めた辞書並みの厚さのある本ですが、中々の値段がするので渋ってましたが最近、やっと購入しました。いくつか別の本で読んだものもありましたが、トリュフォー辞典に相応しい読み応え、とても面白い本です。私にはぴんとこないのですが、蓮実先生はトリュフォーと同世代なんですね。偉大な才能が早くに失われてしまう無念さというものを感じました。    まだ半分しか読めてないので大体読み終わったらお貸ししますよ。ちなみに「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」は番場部長が持ってます。


人類が永遠に続くのではないとしたら:加藤典洋

人類が永遠に続くのではないとしたら

私が非常に信頼している文芸評論家の加藤典洋氏の3.11以降の論考をまとめた本です。 去年本来の物理の勉強そっちのけでずっと読んでいました。中毒性のある危険な本だと思います。人類は有限の世界に生きている、そうであるならばどう生きていけばいいかということが本書のテーマです。見田宗介氏の社会理論を足掛りに吉本隆明、ジョルジョ・アガンベンへとずんずんと進み「できない」ことを肯定する有限性の生の思想を提示します。加藤氏の考え抜いた言葉が私に迫ってきます。有限性のなかで生きるのは大変に困難を極めることです。この本を土台に自分で考え納得した生き方をしたいと思います。


 

書籍は以上です。去年出た小説は「帰ってきたヒトラー」と「女のいない男たち」ぐらいしか読んでません。

 

音楽

最後は音楽です。これこそまさに門外漢なんで怒らないでください。西浦が2014年良く聴いたアルバムだと思って下さい。そもそも私はヒップホップとシティポップくらいしか聴いてません。


promenade:北園みなみ

promenade

 

これは何度も聴きました。北園みなみのファーストアルバム。音が打ち込みでく贅沢です。ドライブしながら聴かなくてすむシティポップ!キリンジや流線型、富田ラボが好きだったらお勧めです。


如雨露:NORIKIYO

如雨露

 

今度は日本のヒップホップですね。これは聴き倒しました。もーかっこいい。アルバムが出るたび言葉が洗練されているなと思います。彼としては意外にも恋愛感情を扱ったアルバムで普段ラップを聴かない人もいい意味で聴きやすいものになっています。私の好きなBRON-Kとのfeatもあってナイスです。


 

音楽の話はこわいんで2つだけ。去年1番聴いた曲は一十三十一の「Night Flight Telephone Call feat. PUNPEE」です。「Snowbank Social Club」の三曲目。とってもおしゃれな曲です。一十三十一もPUNPEEも好きなんでたまらなかったですね。1分56秒からの曲です。

 

2014年のよかったものは以上です。本当は2014年に発見した居酒屋、カフェでよかったところやラジオの番組とかも紹介したいのですが、個人的過ぎるんで気になる人は直接聞いて下さい。ではでは

 

 

 

 

2014年新作ベスト(西浦)

2014年の話題になった映画も大体見たのでやっとベストを公開できます。では早速一位から十位です。


1位 グランド・ブタペスト・ホテル(ウェス・アンダーソン)
2位 セインツ-約束の果て-(デヴィッド・ロウリー)
3位 アクト・オブ・キリング(ジョシュア・オッペンハイマー 、クリスティーヌ・シン)
4位 ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(アレクサンダー・ペイン)
5位 ウルフ・オブ・ウォールストリート(マーティン・スコセッシ)
6位 ブルージャスミン(ウディ・アレン)
7位 戦慄怪奇ファイルコワすぎ! 史上最恐の劇場版(白石晃士)
8位 ゴーン・ガール(デヴィッド・フィンチャー)
9位 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(ジェームズ・ガン)                    10位 罪の手ざわり(ジャ・ジャンクー)


 

アメリカ映画ばかりでごめんなさい。でも札幌だとヨーロッパ映画も中国映画もイラン映画もあんまり見れないんですよ。2014年新作は100本ほど見ました。ワン・ビンの収容病棟やロウ・イエの最近の作品とアンゲロプロスの遺作が見たかったのですが、DVDのリリース待ちです。

最近は映画の趣味が変わってきて昔の名画ばっかり見ています。
1,2位はこんな力強い映画がまだ撮れるんだなあと感心したんで選びました。
3位は当然でしょう。命がけの映画です。評価するしかないでしょう。
4位はランキング入れるか迷ったんですよ。どこか作為的だなと感じますし、見る人のそのときどきの立場で評価も変わりそうですから。でも2014年では一番繰り返し見ちゃった映画です。先のわからぬ大学3年生のときに映画館で見たんだと心のノートに刻んでおきたいんで高順位にしておきます。
5位はこれは評価が別れますよね。でも僕はアメリカ映画のこういう馬鹿馬鹿しさが好きなんで勇気を出してベスト10に入れました。スコセッシが嫌いな人は「グランド・ブタペスト・ホテル」を一位にしておけばいい。私はどっちも好きなんです。悪いか。
6位以下はエンターテイメントとしての映画の楽しさをそのまま順位にしました。
7位は「コワすぎ! 」シリーズ全体を含めての評価としています。
私は白石監督はアメリカの超一線級の娯楽映画に対抗できると本気で思っているのです。
次点10作品です。

「パズル」「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」「新しき世界」
「そこのみにて光り輝く」「her」「熱波」「ジャージー・ボーイズ」
「グレート・ビューティ 追憶のローマ」「LEGOムービー」「ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!」


皆さん見ていないだろうけど「パズル」はすごいホラー映画なんですよ。「コワすぎ!」をいれちゃったから外しましたけど。「先生を流産させる会」の 内藤 瑛亮監督はさすがです。怖いよ。

「グレート・ビューティ」には今はなきイタリア映画への執着を感じます。真面目と不真面目をゆらゆらしています。イタリア人は何をするにしてもおっしゃれと思うのは日本人だからでしょうか。でもそういうこっちゃないんだよ、と老作家はいうのでした。日本語タイトル、なんで英語にするのかなあ。パオロ・ソレンティーノ監督に注目です。

2014年の話題作で見れてないものは
邦画は「野のなななのか」「0.5ミリ」「ほとりの朔子」「海を感じるとき」「私の男」「水の声をきく」
「劇場版 テレクラキャノンボール2013」「福福荘の福ちゃん」など
洋画は「複製された男」「ホドロフスキーのDUNE」「リアリティのダンス」
「ニンフォマニアックVol.1,2」『フランシス・ハ」「毛皮のヴィーナス」「天才スピヴェット」
「ショート・ターム」「イコライザー」「フューリー」など

ベストテンの映画についてはまた詳しくブログで感想書いて生きます。

西浦直人