「ザ・スタッフ」レビュー(池田)

ザ・スタッフ(原題 The Stuff)

予告編

1985年アメリカ

監督、脚本:ラリー・コーエン

製作:ポール・カータ

音楽:アンソニー・ゲフェン

撮影:ポール・グリックマン

出演:マイケル・モリアーティ、アンドレア・マルコヴィッチ、ギャレット・モリス、ポール・ソルヴィノ、スコット・ブルーム、ダニー・アイエロ、パトリック・オニール他

あらすじ

発売されるや大人気、アイスのようなヨーグルトのような不思議な食べ物”スタッフ”。その製法を知りたいライバル企業は、産業スパイとして元FBIのモー(モリアーティ)を向かわせるが、関係者の失踪、成分不明の原材料とおかしなことばかり分かってくる。実はスタッフの正体は地面から湧き出る生命体だった。食べた人間を操り、スタッフは侵略を開始する。

レビュー

B級映画でカルト的人気なラリー・コーエン監督のSFホラー。アイスクリームが人を襲うという突飛な設定がユーモラスでバカバカしい。食べ物襲来系の先駆け『アタック・オブ・ザ・キラートマト』や、宇宙から来た殺人スライム『マックイーン絶対の危機』や『ブロブ』を足して2で割った感じ。

ジョージア州ミッドランドの採掘場から湧き出た白い物体。それを見つけた作業員は何のためらいもなくパクリ。「こりゃ美味い。売れるぞ!」。開始1分でこのトンデモ展開。物体は”スタッフ”と名付けられ、商品化されて大ヒット。味の虜になった人々は買い漁る。自宅の冷蔵庫でスタッフが動くのを目撃した少年は不審感を募らせ、スーパーに陳列されたスタッフを壊しまくるという「一人暴動」を起こす。BGMも相まって笑える。

劇中で何度か流れるCMは、センスも費用も徐々にグレードアップ。スタッフの売れ行きをCMで表すというのが面白い。

スタッフを食べた者は体内を乗っ取られ人々を襲うようになるのだが、中身が柔らかいので脆すぎる。パンチ一発で頭が崩壊するが、飛び散るのは白いクリームなので怖くない。

スタッフの製造過程の実情が汚い。地面から湧き出る物体をタンクに吸い上げ、そのまま工場でパックに詰めて売る。こんなのがまかり通るというのがいかにもB級。大量生産・大量消費の風刺だろうか。

話が進むにつれ、スタッフは『ブロブ』のように大きな塊で積極的に人を襲うようになる。ここで出てくるのが、主人公の知人の、古城に住む私設軍隊。ここら辺からガラッと変わる。軽快な音楽の下、製造工場で銃撃戦が行われ(直前に出るトラック運転手の帽子のロゴが、日産自動車のダットサン)、「何の映画だったっけ?」と思わずにいられない。この軍隊が面白い。リーダーの大佐(ソルヴィノ)はロリコン、移動方法はタクシー。

工場を壊滅させた主人公一行はラジオ局を占拠。国民へ「スタッフは危険だ、食うな!」と呼びかける。前半での中毒状態だった消費者の描写もあるので、もうひと波乱あるのかと思いきや国民たちは放送を信じて暴動。スタッフを火に放り込み、製造関連者をリンチ、販売店を爆破。そして爆破の巻き添えになるマクドナルド。事態の終息をコンパクトにまとめすぎ。ラストはこの手の映画によくある展開。悪の根源を絶やせてない。

ダニー・アイエロが出ていたのが驚き。(前半で出番終了した)

主人公の知人、チョコチップ・チャーリーの役回りが意外。生き残りそうなポジションだったが、一番酷い最期を迎えた。

音楽が好印象。全体的にギャグがきいている。『キラートマト』は途中で鑑賞を放棄したが、こちらは全編鑑賞。決してA級ではないが、なぜか引き込まれる。

豆知識

スーパーの店員にエリック・ボゴシアン、エンドクレジット直前にパトリック・デンプシー、工場の工員にポール・ソルヴィノの娘ミラ・ソルヴィノがクレジットなしで出演

2014年好きなものいろいろ

映画ベストに引き続きその他のベストも発表します。2014年に出たものに限定しています。

漫画


 

あれよ星屑:山田参助

あれよ星屑 1

 

この作品はコミックビームに連載開始時点から面白いとお勧めしてしたものですね。兵隊やくざな門松と川島の生き生きとしたやりとりがとても魅了的です。作者はゲイ漫画界で活躍されていたらしく達者な絵を描かれています。メリハリがついた絵で戦後東京の混乱したでも温かい貧しさをうまーく見せています。こんな漫画家がいたとは。コミックビームもさすが。現在2巻まで発売しているところ。マンガは高峰君に貸してます。


 

ドミトリーともきんす:高野文子

ドミトリーともきんす

「絶対安全剃刀」や「黄色い本」で漫画通に知られている高野文子先生の新作です。これはとても話題になったマンガですね。本屋さんでもよく目にしました。空想の学生寮「ともきんす」に偉大なる4人の科学者、朝永振一郎先生、牧野富太郎先生、中谷宇吉郎先生、湯川秀樹先生が住んでいるという幸せなお話です。私たち若い世代にはあまり知られていませんが、寺田寅彦先生を代表に戦前の大科学者は優れた随筆を多く残されています。

本作では四人と寮母さんとその娘の淡々とした交流が描かれえます。何度読んでも飽きないつくりですから4人の著作を読んでもいいし、マンガって何だろうと科学チックに考えてもいいんですね。マンガ表現の巧みさに驚きます。これも高峰君に貸してます。


 

 

ムシヌユン:都留 泰作

ムシヌユン 1

ビッグコミック・スペリオールで連載中のSF、エログロ、ギャグマンガです。27歳童貞の主人公が南の島でへんてこな虫にかまれて変身(というか変態)する「寄生獣」に似た話ではあるものの岩明均のようなスピード感や読みやすい構成になっていない分、どんなはなしか先が読めません。本来だったらわかりにくくて飽きられそうなんですが、無視はできないマンガとしての力があります。読み手として寄り添うところがないマンガですが、続きがとても気になります。


五色の舟:近藤ようこ

五色の舟

これも何度もお勧めしましたね。「あれよ星屑」と同時期にコミックビームで連載された作品です。近藤ようこ先生はベテラン漫画家で題材選びも挑戦的で筋が通っているため毎回楽しみなんですが、本作も美しくやわらかい絵で異形の家族を描ききっていると思います。

大衆文化にどっぷりの私なんぞが何をいわんやですが、日本の文化の良さは曖昧でゆらゆらしたところ、つまりあちらとこちらの狭間に見出せるんではと思ってます。ともすれば消え入ってしまいそうな線と日常と非日常のあわいを演じることで日々の糧を得る見世物小屋の家族たちがとてもマッチしていて、ゆれる小舟に乗ったような読後感がありました。

2014年は個人的に先の大戦についてこだわっていたので今は亡き先輩方への鎮魂のような気持ちで読みました。近藤ようこ先生は現在コミックビームで折口信夫の「死者の書」をコミカライズされています。


 

夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない:宮崎 夏次系

夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない

このマンガはすでに紹介した作品と比べると趣味的です。サブカル的だと言われそうですが、私は宮崎 夏次系が好きなのです。まず女の子がいい。私は女の子がポカーと口をあけているところに愛らしさを感じるんですが、宮崎 夏次系に描く女の子はどこか抜けているんですね。そのヘタウマな感じに惹かれるのです。お話はナンセンスコメディでとことん馬鹿馬鹿しい、変でしょうと奇をてらったところもあるんでまだまだ進化の余地もあります。本作は短編集なので当たり外れもありますが、読みやすい作品だと思います。


 

以上が漫画で去年何度も読んだものです。漫画は映画ほど頑張って数を読んでないので他にも良いものはあると思いますが、私のお勧めです。

 

書籍

私は小説を余り読まないので14年出版の小説について何かお勧めすることは出来ません。ここでは14年に出た本の中から面白かったものを紹介します。


 

資本主義から市民主義へ:岩井 克人 (著), 三浦 雅士

資本主義から市民主義へ

 

私は高校時代にヴェニスの商人の資本論を読んで以来、岩井克人氏のファン(適切な言い方なのか)なのですが、本書では貨幣の存在支えるのはただ貨幣のみという一見びっくりな岩井理論の現時点での成果が三浦氏との対談を通してまとめられています。

岩井理論の射程は貨幣から言語、法までを貫くもので理系の私には読み解くのが難しいのですが、貨幣、言語、法は私たちがそれらの存在を信じているからこそ成立する建設的虚構だというのはとても納得出来ます。へんな話、人間っていいなと思いました。映画だって本当はうそっぱちだけど人間はフィクションを信じていれば辛くたって生きれますよね。頭がいい人って深いなあとおバカな感想を持ちました。


 

トリュフォー 最後のインタビュー:蓮實 重彦 (著), 山田 宏一 (著)

トリュフォー 最後のインタビュー

 

以前ブログでも書いた通り、去年はトリュフォー没後30年でした。それにあわせて以前のインタビューを集めた辞書並みの厚さのある本ですが、中々の値段がするので渋ってましたが最近、やっと購入しました。いくつか別の本で読んだものもありましたが、トリュフォー辞典に相応しい読み応え、とても面白い本です。私にはぴんとこないのですが、蓮実先生はトリュフォーと同世代なんですね。偉大な才能が早くに失われてしまう無念さというものを感じました。    まだ半分しか読めてないので大体読み終わったらお貸ししますよ。ちなみに「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」は番場部長が持ってます。


人類が永遠に続くのではないとしたら:加藤典洋

人類が永遠に続くのではないとしたら

私が非常に信頼している文芸評論家の加藤典洋氏の3.11以降の論考をまとめた本です。 去年本来の物理の勉強そっちのけでずっと読んでいました。中毒性のある危険な本だと思います。人類は有限の世界に生きている、そうであるならばどう生きていけばいいかということが本書のテーマです。見田宗介氏の社会理論を足掛りに吉本隆明、ジョルジョ・アガンベンへとずんずんと進み「できない」ことを肯定する有限性の生の思想を提示します。加藤氏の考え抜いた言葉が私に迫ってきます。有限性のなかで生きるのは大変に困難を極めることです。この本を土台に自分で考え納得した生き方をしたいと思います。


 

書籍は以上です。去年出た小説は「帰ってきたヒトラー」と「女のいない男たち」ぐらいしか読んでません。

 

音楽

最後は音楽です。これこそまさに門外漢なんで怒らないでください。西浦が2014年良く聴いたアルバムだと思って下さい。そもそも私はヒップホップとシティポップくらいしか聴いてません。


promenade:北園みなみ

promenade

 

これは何度も聴きました。北園みなみのファーストアルバム。音が打ち込みでく贅沢です。ドライブしながら聴かなくてすむシティポップ!キリンジや流線型、富田ラボが好きだったらお勧めです。


如雨露:NORIKIYO

如雨露

 

今度は日本のヒップホップですね。これは聴き倒しました。もーかっこいい。アルバムが出るたび言葉が洗練されているなと思います。彼としては意外にも恋愛感情を扱ったアルバムで普段ラップを聴かない人もいい意味で聴きやすいものになっています。私の好きなBRON-Kとのfeatもあってナイスです。


 

音楽の話はこわいんで2つだけ。去年1番聴いた曲は一十三十一の「Night Flight Telephone Call feat. PUNPEE」です。「Snowbank Social Club」の三曲目。とってもおしゃれな曲です。一十三十一もPUNPEEも好きなんでたまらなかったですね。1分56秒からの曲です。

 

2014年のよかったものは以上です。本当は2014年に発見した居酒屋、カフェでよかったところやラジオの番組とかも紹介したいのですが、個人的過ぎるんで気になる人は直接聞いて下さい。ではでは

 

 

 

 

2014年新作ベスト(西浦)

2014年の話題になった映画も大体見たのでやっとベストを公開できます。では早速一位から十位です。


1位 グランド・ブタペスト・ホテル(ウェス・アンダーソン)
2位 セインツ-約束の果て-(デヴィッド・ロウリー)
3位 アクト・オブ・キリング(ジョシュア・オッペンハイマー 、クリスティーヌ・シン)
4位 ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(アレクサンダー・ペイン)
5位 ウルフ・オブ・ウォールストリート(マーティン・スコセッシ)
6位 ブルージャスミン(ウディ・アレン)
7位 戦慄怪奇ファイルコワすぎ! 史上最恐の劇場版(白石晃士)
8位 ゴーン・ガール(デヴィッド・フィンチャー)
9位 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(ジェームズ・ガン)                    10位 罪の手ざわり(ジャ・ジャンクー)


 

アメリカ映画ばかりでごめんなさい。でも札幌だとヨーロッパ映画も中国映画もイラン映画もあんまり見れないんですよ。2014年新作は100本ほど見ました。ワン・ビンの収容病棟やロウ・イエの最近の作品とアンゲロプロスの遺作が見たかったのですが、DVDのリリース待ちです。

最近は映画の趣味が変わってきて昔の名画ばっかり見ています。
1,2位はこんな力強い映画がまだ撮れるんだなあと感心したんで選びました。
3位は当然でしょう。命がけの映画です。評価するしかないでしょう。
4位はランキング入れるか迷ったんですよ。どこか作為的だなと感じますし、見る人のそのときどきの立場で評価も変わりそうですから。でも2014年では一番繰り返し見ちゃった映画です。先のわからぬ大学3年生のときに映画館で見たんだと心のノートに刻んでおきたいんで高順位にしておきます。
5位はこれは評価が別れますよね。でも僕はアメリカ映画のこういう馬鹿馬鹿しさが好きなんで勇気を出してベスト10に入れました。スコセッシが嫌いな人は「グランド・ブタペスト・ホテル」を一位にしておけばいい。私はどっちも好きなんです。悪いか。
6位以下はエンターテイメントとしての映画の楽しさをそのまま順位にしました。
7位は「コワすぎ! 」シリーズ全体を含めての評価としています。
私は白石監督はアメリカの超一線級の娯楽映画に対抗できると本気で思っているのです。
次点10作品です。

「パズル」「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」「新しき世界」
「そこのみにて光り輝く」「her」「熱波」「ジャージー・ボーイズ」
「グレート・ビューティ 追憶のローマ」「LEGOムービー」「ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!」


皆さん見ていないだろうけど「パズル」はすごいホラー映画なんですよ。「コワすぎ!」をいれちゃったから外しましたけど。「先生を流産させる会」の 内藤 瑛亮監督はさすがです。怖いよ。

「グレート・ビューティ」には今はなきイタリア映画への執着を感じます。真面目と不真面目をゆらゆらしています。イタリア人は何をするにしてもおっしゃれと思うのは日本人だからでしょうか。でもそういうこっちゃないんだよ、と老作家はいうのでした。日本語タイトル、なんで英語にするのかなあ。パオロ・ソレンティーノ監督に注目です。

2014年の話題作で見れてないものは
邦画は「野のなななのか」「0.5ミリ」「ほとりの朔子」「海を感じるとき」「私の男」「水の声をきく」
「劇場版 テレクラキャノンボール2013」「福福荘の福ちゃん」など
洋画は「複製された男」「ホドロフスキーのDUNE」「リアリティのダンス」
「ニンフォマニアックVol.1,2」『フランシス・ハ」「毛皮のヴィーナス」「天才スピヴェット」
「ショート・ターム」「イコライザー」「フューリー」など

ベストテンの映画についてはまた詳しくブログで感想書いて生きます。

西浦直人

1/30例会記録

部長の番場です。例会も今年度はこれが最後。早いもんです。

2/1の映画

毎月1日の映画館にいこう企画、2ヶ月ぶりの今回はデヴィッド・クローネンバーグ最新作『マップ・トゥ・ザ・スターズ』を観に行きます。クローネンバーグは人によって好き嫌いが極端に分かれる作品ばかり撮ってますが、今作はどうなのか・・・?

今年度製作作品上映

今年度を振り返るため、製作作品の上映を行いました。

『のら』

『潔癖男』

『君はヒーロー』

『おしまいの時代母』

以上4作品を上映しました。『狂乱天国』は時間の都合上カット。

学期前半のチーム製作作品が主だったわけですが、現在撮影中の映画も含めれば、今年度は8本製作しました。来年は2ケタを目指しましょうか。

春休みもシネポリ、追いコン、温泉、そして勿論撮影や新歓準備など映研の活動は尽きません。楽しくやっていきましょう。