『八仙飯店之人肉饅頭』レビュー(池田)

完全ネタバレ

八仙飯店之人肉饅頭(原題 八仙飯店之人肉叉焼包、英題 The Eight Immortals Restaurant: The Untold Story)

1993年香港

監督:ハーマン・ヤオ

脚本:ラオ・カムファイ

製作:ダニー・リー

撮影:ツォ・ワイケイ

音楽:ウォン・ボン

出演:アンソニー・ウォン、ダニー・リー、ラウ・スーミン、シン・フイウォン、エミリー・クワン、パクマン・ウォン、エリック・ケイ、ラム・キンコン他

あらすじ

1986年マカオ。海岸に腐乱した人間の手足が打ち上げられた。警察の捜査で行きついたのは、中華料理店の経営者ウォン(ウォン)。彼は抵抗と黙秘を続けるが、連日の取り調べと囚人からの暴行に耐えかね、ついに自白。恐ろしい真実を語る。

レビュー

感想を書こうかずーっと迷っていた作品。中国返還前の香港で生まれた衝撃作。殺した死体の肉を饅頭にして売るというプロットはおろか、実話を基にしたというのがすごい。香港猟奇ホラーの金字塔といえる。主演を務めたアンソニー・ウォンは、その演技から1994年度の香港電影金像奨(香港版アカデミー賞)で主演男優賞を受賞した。(こんな映画で取れるのがまた怖い)

本編が開始していきなり、麻雀の賭けをめぐって男2人がケンカ。主人公の男は相手を叩きのめし、灯油をかけて火をつける。オープニングクレジット前でもう悲惨。

場面変わって海岸。腐乱した手足が発見され、警察が捜査にやってくる。ここでメインとなるのが、やたらノリが軽い刑事4人組。まるでバラエティのコントのようなやり取りを終始繰り広げる。映画の凄惨さを和らげているつもりなのだろうが、いかんせんスベっている。彼らのボスの警部役は本作プロデューサーのダニー・リー。いつも娼婦を連れている。紅一点の刑事は警部に惚れており、アプローチするもまったく気づいてもらえない。ストーリーに関係ないラブ要素。

マカオの一角にある料理屋「八仙飯店」。豚を解体する、坊主頭にメガネの大男。彼が主人公のウォン。挙動、言葉、態度がいろいろヤバい。職を求めてきた男をわずか10秒の面接で雇う。繁盛しているのに店の権利を手放したがっているが、前店主の署名がないため売却できない。一方警察では、中国本土から八仙飯店店主の捜索願が届く。BGMがホンワカしている。

主人公は賭け麻雀が好きで、いつもイカサマをして勝っているが、新しく雇った男に見られてしまう。ある夜、彼は男を伝票刺しとお玉で殺害。死体を解体して肉を肉饅の具にして販売する。饅頭の調理工程はしっかり見せる。骨はゴミ袋に入れてポイ。手際はいいが、たぶん手を洗ってない。その人肉入り饅頭を客は食う。

相変わらず警察には捜索願が届く。海岸の手から採取された指紋から、被害者は八仙飯店前店主の義理母と判明。八仙飯店に警察が調査に来る。主人公は愛想よく振る舞い、饅頭をサービス。署に戻った刑事たちは実に美味そうに饅頭を食べる。八仙飯店では第二の犠牲者が出る。主人公は警察に「本土から手紙がよく来る」と証言した女性店員を強姦し殺害。○○○に箸を刺すという鬼畜の所業。不快感しかない。

依然として警察パートはグダグダだが、八仙飯店に関する不可解な事がいろいろ分かってくる。今度は警部が直々に飯店に乗り込み主人公を尋問。しどろもどろな態度が怪しまれ、主人公は国外逃亡を図るも、張り込んでいた刑事と出国直前で派手な大立ち回りを演じた末に逮捕される。

前半のほのぼのした感じとは打って変わって、刑事たちは取り調べで主人公を殴る蹴るの暴行。完全にリンチ。主人公は隙をついて、集まっていた報道陣に痣と傷を見せ、警察は大バッシングを受ける。怒った警察は彼を前店主の弟がいる刑務所に強制収監。警察の発想が鬼である。囚人たちからも壮絶なリンチ(一人だけリンチに加わらない囚人は壊れたメガネを直すなどメッチャいい人)。

耐えきれず主人公は自殺を図る。鉄板で手首をギコギコ、そして血管を噛みちぎる。実にグロい。そこまでやったのに死にきれず、病院に搬送されて再び刑事たちから過酷な尋問。彼に暴行を振るわれた看護師は彼の背中に水を注射。水ぶくれがたくさんできて、仰向けになると激痛が走る。「人権」という概念がない。

寝かせてもらえない主人公はついに自白。ここが本作のハイライト。前店主一家皆殺しの回想シーン。賭け麻雀の支払いがもつれ、主人公はブチ切れ。一家全員縛り上げ、中華包丁で惨殺。その内5人は幼い子供で、もう見ていられない。子役の成長に支障をきたしたのではないか。死体は解体し饅頭の具にする。映倫の規定に引っかかったのはこの場面のせいに違いない。真相を知った刑事たちは嘔吐。唯一食べなかった警部は「食べなくてよかった」と他人事。実刑が確定した主人公だが、誰も彼を裁けなかった。獄中で手首を空き缶のタブでえぐって自殺したからである。そしてエンドロール。後味が実に悪い。

アンソニー・ウォンが演じる主人公の恐ろしさとインパクト、これに尽きる。1996年にはアフリカでエボラに感染した男が香港で菌をまき散らすホラー『エボラ・シンドローム』で主演。猟奇的な役ばかりと思ったら、『インファナル・アフェア』『メダリオン』『頭文字D』『ハムナプトラ3』など、ドラマやコメディにも多数出演している。内容も演出も酷い映画だが、カルト的に語り継がれる伝説の作品。どうでもいいが、出国直前のシーンでドラえもんのぬいぐるみが映っている。たぶん偽物

「チキン・オブ・ザ・デッド」レビュー(池田)

チキン・オブ・ザ・デッド 悪魔の毒々バリューセット(原題 Poultrygeist: Night of the Chicken Dead)

2006年アメリカ

監督:ロイド・カウフマン

脚本:ガブリエル・フリードマン、ダニエル・ボヴァ、ロイド・カウフマン

製作:アンディ・ディーマー、キール・ウォーカー

音楽:ドゥギー・バナス

撮影:ブレンダン・フリント、ロイド・カウフマン

出演:ジェイソン・ヤチャニン、ケイト・グレアム、アリソン・セレドフ、ロビン・L・ワトキンス、ジョシュア・オラトゥンデ、ケイレブ・エマーソン、ローズ・ギャヴァミ他

あらすじ

ネイティブアメリカンの墓地跡にフライドチキンのチェーン店がオープン。レジ担当のアービー(ヤチャニン)は客や同僚の相手に四苦八苦。そんな中、先住民の魂と鶏の怨念が店内の食材に憑依。呪われた料理を食べた人々はゾンビになる。

レビュー

1974年に設立、80年代頃から数多くのスプラッターコメディを作ってきたトロマ・エンターテイメントが手がけた作品。「人間の体から出るもの全部映しとけ!」のノリで非常に下品で悪趣味、当然ながらR-18。外食産業をキツめに風刺し、歌って踊るミュージカル。

先住民「トロマホーク族」の墓地で童貞を捨てようとする主人公(と言っていいのか)。地面から死者の手がウジャウジャ出るが気づかない。覗き見する変態があらわれ、気分を害した彼女は帰ってしまう。変態は肛門から口まで手を貫通される。タイトル前でこの酷さ。

その墓地跡にできたのが、フライドチキンチェーン「アメリカン・チキン・バンカー」。動物愛護を唱える反対派の猛抗議の中、オープンする。この直前にやって来る、「みんな呪われる!」と騒ぐ男は、明らかに『13日の金曜日』の警告する老人のパロディ。店内の食材は即座に呪われる。緑の粘液にまみれた卵、揚げられて悲鳴を上げるチキンと嫌悪感あふれる。厨房担当の従業員は個性が強すぎる面々。この状況を疑問に思うも営業を続け、調理工程が雑すぎる。調味ソースが下水みたいな色。

来客第一号は超肥満体の男(演じるのはトロマ映画の常連ジョー・フレイシェイカー)。呪われた卵を食べた瞬間腹を壊してトイレに直行。個室内を汚物まみれにしてなぜか”脱皮”してしまい、「痩せたぞ!」と歓喜して帰っていく。この時点でまだ本編開始20分くらい。

鶏の嘴と脚を砕いてひき肉を作っていた店員が、チキンに突き飛ばされてマシンに転落、自身がひき肉になる(この店員の魂は後にハンバーガーに憑依)。血まみれの厨房の中、チェーン店設立者の将軍(たぶんカーネル・サンダースのパロディ。”カーネル”(大佐)ではなく”ジェネラル”(将軍))はそれでも営業続行の指示を出す。獣姦嗜好の店員はチキンに股間を噛まれ、助けようとしたムスリムの女性店員のせいでモップの柄が下半身を貫通する。血の量が多すぎる。

緑色のフライドチキンを食べた人々は次々とゾンビに変身。気色悪い鶏ゾンビになった設立者が店長の頭を噛みちぎるのを皮切りに大殺戮がスタート。厨房にある調理器具が凶器と化す。文章にするのも嫌になる。こんな状況でもミュージカル調である。

監督のロイド・カウフマンは未来の老いた主人公の役で登場。なぜここでSF要素が絡むのかまったく分からない。還暦を迎えてもスプラッター映画製作に精を出しているのがすごい。

トロマの人体破壊ギャグに少しでも抵抗がある人にはとても勧められない

「ザ・スタッフ」レビュー(池田)

ザ・スタッフ(原題 The Stuff)

予告編

1985年アメリカ

監督、脚本:ラリー・コーエン

製作:ポール・カータ

音楽:アンソニー・ゲフェン

撮影:ポール・グリックマン

出演:マイケル・モリアーティ、アンドレア・マルコヴィッチ、ギャレット・モリス、ポール・ソルヴィノ、スコット・ブルーム、ダニー・アイエロ、パトリック・オニール他

あらすじ

発売されるや大人気、アイスのようなヨーグルトのような不思議な食べ物”スタッフ”。その製法を知りたいライバル企業は、産業スパイとして元FBIのモー(モリアーティ)を向かわせるが、関係者の失踪、成分不明の原材料とおかしなことばかり分かってくる。実はスタッフの正体は地面から湧き出る生命体だった。食べた人間を操り、スタッフは侵略を開始する。

レビュー

B級映画でカルト的人気なラリー・コーエン監督のSFホラー。アイスクリームが人を襲うという突飛な設定がユーモラスでバカバカしい。食べ物襲来系の先駆け『アタック・オブ・ザ・キラートマト』や、宇宙から来た殺人スライム『マックイーン絶対の危機』や『ブロブ』を足して2で割った感じ。

ジョージア州ミッドランドの採掘場から湧き出た白い物体。それを見つけた作業員は何のためらいもなくパクリ。「こりゃ美味い。売れるぞ!」。開始1分でこのトンデモ展開。物体は”スタッフ”と名付けられ、商品化されて大ヒット。味の虜になった人々は買い漁る。自宅の冷蔵庫でスタッフが動くのを目撃した少年は不審感を募らせ、スーパーに陳列されたスタッフを壊しまくるという「一人暴動」を起こす。BGMも相まって笑える。

劇中で何度か流れるCMは、センスも費用も徐々にグレードアップ。スタッフの売れ行きをCMで表すというのが面白い。

スタッフを食べた者は体内を乗っ取られ人々を襲うようになるのだが、中身が柔らかいので脆すぎる。パンチ一発で頭が崩壊するが、飛び散るのは白いクリームなので怖くない。

スタッフの製造過程の実情が汚い。地面から湧き出る物体をタンクに吸い上げ、そのまま工場でパックに詰めて売る。こんなのがまかり通るというのがいかにもB級。大量生産・大量消費の風刺だろうか。

話が進むにつれ、スタッフは『ブロブ』のように大きな塊で積極的に人を襲うようになる。ここで出てくるのが、主人公の知人の、古城に住む私設軍隊。ここら辺からガラッと変わる。軽快な音楽の下、製造工場で銃撃戦が行われ(直前に出るトラック運転手の帽子のロゴが、日産自動車のダットサン)、「何の映画だったっけ?」と思わずにいられない。この軍隊が面白い。リーダーの大佐(ソルヴィノ)はロリコン、移動方法はタクシー。

工場を壊滅させた主人公一行はラジオ局を占拠。国民へ「スタッフは危険だ、食うな!」と呼びかける。前半での中毒状態だった消費者の描写もあるので、もうひと波乱あるのかと思いきや国民たちは放送を信じて暴動。スタッフを火に放り込み、製造関連者をリンチ、販売店を爆破。そして爆破の巻き添えになるマクドナルド。事態の終息をコンパクトにまとめすぎ。ラストはこの手の映画によくある展開。悪の根源を絶やせてない。

ダニー・アイエロが出ていたのが驚き。(前半で出番終了した)

主人公の知人、チョコチップ・チャーリーの役回りが意外。生き残りそうなポジションだったが、一番酷い最期を迎えた。

音楽が好印象。全体的にギャグがきいている。『キラートマト』は途中で鑑賞を放棄したが、こちらは全編鑑賞。決してA級ではないが、なぜか引き込まれる。

豆知識

スーパーの店員にエリック・ボゴシアン、エンドクレジット直前にパトリック・デンプシー、工場の工員にポール・ソルヴィノの娘ミラ・ソルヴィノがクレジットなしで出演

「ダイ・ハード2」レビュー(池田)

ダイ・ハード2(原題:Die Hard 2)

予告編

1990年アメリカ

監督:レニー・ハーリン

脚本:スティーブン・E・デ・スーザ、ダグ・リチャードソン

原作:ウォルター・ウェイジャー

製作:チャールズ・ゴードン、ローレンス・ゴードン、ジョエル・シルヴァー

音楽:マイケル・ケイメン

撮影:オリヴァー・ウッド

出演:ブルース・ウィリス、ボニー・ベデリア、ウィリアム・サドラー、デニス・フランツ、フランコ・ネロ、ジョン・エイモス、アート・エヴァンス、フレッド・ダルトン・トンプソン他

あらすじ

前作の事件から1年後のクリスマス。マクレーン(ウィリス)は妻ホリー(ベデリア)を迎えにバージニア州のワシントン・ダレス空港にやって来た。だが、南米の麻薬王の解放を目的にテロ集団が空港の管制機能を乗っ取り、上空の飛行機が着陸できなくなる。このままでは燃料切れで墜落は必至。マクレーンにとって最悪の夜が幕を開けた。

レビュー

隔絶された高層ビルを舞台に、世界的にヒットした『ダイ・ハード』(ネット上でよくある「学校がテロリストに占拠されたら」の妄想ネタのきっかけはこの映画なのでは)の続編。監督はマクティアナンからレニー・ハーリンにバトンタッチ。

本作の舞台は真冬の国際空港。前作のような閉塞感は無い。空港の仕組みや様々な役職など、裏側が見られて面白い。ウォルター・ウェイジャーの小説『ケネディ空港着陸不能』を原作としている。前作の原作小説とはつながりはない。

前作はマクレーンに非協力的な人物が多かったが、本作は協力的な者が多い。対照的なのは空港警察のロレンゾ署長(フランツ)。マクレーンと何度も口論を繰り広げる。

前作の人物も引き続き登場。マクレーンの妻ホリーは降りられなくなった飛行機の中。同じ機内にはTVリポーターのソーンバーグも。相変わらず傍若無人で、終盤で余計なジャーナリスト精神で多くの人々をパニックにする。ロサンゼルス市警のパウエルは序盤のみ。ケーキ菓子”トゥインキー”がまた出てくる。

今回の敵は元軍人だらけの戦闘集団。強い奴らばかりでマクレーンがボコボコにやられまくる。相変わらずSWATが噛ませ犬。

その分敵の死に方はグロさが高まって痛々しい。ベルトコンベアーに巻き込まれたりつららが刺さったり。クライマックスの主翼上での肉弾戦の最期は…初見の時、怖かった。

←どう見ても人形

面白いが、1作目は超えられない。終盤でどんでん返しな展開があり意表を突かれる。前作では少なかった民間人の死者数が本作でドーンと跳ね上がる。そこを批判する意見が多い。北野武曰く「オレの映画よりダイ・ハードの方が何百人も殺してる」

豆知識

・予算7000万ドル、全世界興行収入2億3954万ドル、ブルース・ウィリスのギャラ750万ドル

・なかなか爆発しない手榴弾、強力すぎるジェットエンジンなど、リアリティ完全無視の演出が目立つ

・中盤の銃撃戦シーン。テロリストの一人が『ターミネーター2』で悪のターミネーター、T-1000を演じたロバート・パトリック。ジェームズ・キャメロンの目に止まって役を得たらしい。シュワルツェネッガーとはいい勝負だったのにブルース・ウィリスにはあっさりやられていた

←この役で一躍有名に

【秋新歓ブログリレー企画】「ダイ・ハード」レビュー(池田)

新歓ブログリレーのバトンが回ってきました、2年の池田です。いつもと同じように映画レビューします

ダイ・ハード(原題:Die Hard)

予告編

1988年アメリカ

監督:ジョン・マクティアナン

脚本:ジェブ・スチュアート、スティーブン・E・デ・スーザ

原作:ロデリック・ソープ

製作:ローレンス・ゴードン、ジョエル・シルヴァー

音楽:マイケル・ケイメン

撮影:ヤン・デ・ボン

出演:ブルース・ウィリス、ボニー・ベデリア、レジナルド・ヴェルジョンソン、ポール・グリーソン、ウィリアム・アザートン、ハート・ボックナー、ジェームズ・シゲタ、アラン・リックマン、アレクサンダー・ゴドノフ他

あらすじ

クリスマス。ニューヨーク市警のジョン・マクレーン(ウィリス)は家族と過ごすため、別居中の妻ホリー(ベデリア)が勤務する、ロサンゼルスにある日系企業ナカトミ商事のビルにやって来た。しかしパーティーの最中、ハンス(リックマン)をリーダーとする武装グループが6億ドルを超える債券を目的にビルを制圧。運よくその場を逃れたマクレーンはたった一人で彼らに立ち向かう。

レビュー

自分の中でアクション映画、クリスマス映画の最高峰だと思う作品。ブルース・ウィリスのアクション俳優としての地位を確立させた。公開時のキャッチコピーは「地上40階!超高層ビルは戦場と化した!」。原作はロデリック・ソープの『ダイ・ハード』(原題は”Nothing Lasts Forever”)。映画は娯楽色が強いが原作はハードボイルドで設定に違いが見られる。”タクシイ”や”トニイ”などクセのある日本語訳。

ビルに閉じ込められ、単独で悪と戦うという設定がいい。シュワルツェネッガーやスタローンみたいなタフガイが敵をガンガン殲滅するのとは違い、ブルース・ウィリス演じるマクレーンは序盤から不満や愚痴を吐き、弱音を漏らして仲間から励まされる、現実感ある警官である。だからこそ感情移入できる。

敵側が魅力的なのもこの映画の特徴。それまでのアクション映画における悪は問答無用で主人公に倒されてほぼモブキャラ、エキストラ扱いが主だったが、本作は13人の強盗全員に名前がついている。リーダーを演じるのは『ハリー・ポッター』のスネイプ教授役のアラン・リックマン。冷静沈着な出来るボス。他にも、格闘、コンピューター、演技力など、特技を持った個性的な部下がたくさん。みんな手際がいい。

←全員集合

悪人ではないが主人公と対立、邪魔する面々がいるのが面白い。ロサンゼルス市警のお偉いさんは主人公に耳を貸さず、視聴率狙いのテレビ局、傲慢で人質のことを考えないFBI…。SWATはこのシリーズでは噛ませ犬。

マクレーンは完全に孤独ではない。パトロール警官のパウエル(ヴェルジョンソン)はビルの外から無線でマクレーンとやり取りして友情を深め合う。地下駐車場に閉じ込められたリムジン運転手アーガイル(『ブルース・ブラザーズ』でレイ・チャールズの楽器店からギターを盗もうとした少年)は終盤で勇敢な一面を見せる。

ユーモアや伏線が多く効いている。「靴を脱ぐんだ」とフォトスタンドはいいアイデア。肉弾戦や爆発など、当然ながらアクション映画の魅力はたっぷり盛り込んである。

好きなシーン

①エレベーターから爆弾投下

中盤、敵の非情さにキレたマクレーンが即席で爆弾をつくって攻撃。敵のミサイル弾に誘爆してビルの3階部分が吹き飛ぶ

②金庫室のロック解除

FBIのせいでロックが解除される。ここで流れるのがベートーヴェンの『歓喜の歌』。敵側の成功なのになんか嬉しくなる

③パウエルのパトカー破壊

ビルの異変に最初に気づいた警官パウエル。敵(とマクレーン)によりパトカーを滅茶苦茶にされる

④ある人物の雄姿

最後、事件が解決して一安心、と思ったら急展開。ここであの人がある行動をとる。感動する。そして流れるヴォーン・モンローの”Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!”。

5作目までシリーズ化されているが、1作目が最高。本シリーズのファンページ「ダイ・ハード・タワー」がすごい。登場人物やトリビアはもちろん使われた武器まで事細かに記載されている。あと、全編英語だが「Die Hard Wiki」も情報がビッシリ。以下はそのURL

http://homepage2.nifty.com/die-hard/

http://diehard.wikia.com/wiki/Main_Page

豆知識

・製作費2800万ドル、全世界興行収入1億3740万ドル、ブルース・ウィリスのギャラ500万ドル

・キャッチコピーに「地上40階!」とあるが、舞台となったフォックス・プラザ(20世紀フォックスの本社ビル)は35階建てである。高さは約150メートル

・マクレーンのタンクトップが、なぜか途中から白からこげ茶に変わる

・最初に死んだ敵を仲間が確認するシーン。仲間が死体を叩く直前、目がわずかに動く

・パウエルがコンビニで大量に買い込んでいたのは、Hostess社(現在は倒産)のケーキ菓子トゥインキー(”Twinkie”)。アメリカではポピュラーな菓子で、『ゴーストバスターズ』(1984)や『ゾンビランド』(2009)にも出てくる。そして続編『ダイ・ハード2』(1990)にも。味は超甘くて油っこいらしい

「スクワーム」レビュー(池田)

スクワーム(原題:Squirm)

予告編

1976年アメリカ

監督、脚本:ジェフ・リーバーマン

原作:リチャード・カーティス

製作:ジョージ・マナス

音楽:ロバート・プリンス

撮影:ジョセフ・マンジーン

出演:ドン・スカーディノ、パトリシア・ピアシー、R・A・ダウ、ジーン・サリヴァン、ピーター・マクリーン、フラン・ヒギンス、ウィリアム・ニューマン他

あらすじ

1975年9月29日、ジョージア州フライクリークを襲った大嵐。強風でちぎれた電線が落下し地面に電流を流した。その日から不可解な怪死事件が続発。原因は電流により狂暴化したゴカイの群れだった。

レビュー

リチャード・カーティスの小説『スクワーム』の映画化。”squirm”は「もがく、這う」という意味。大量のゴカイ(ミミズに似た生物)が画面中を埋め尽くす。

最初の方は、喫茶店の飲み物にゴカイが混入したり、腕を噛まれたり、白骨死体が出るレベル。中盤あたりからは死体のシャツを脱がすと体内で蠢く、シャワーの穴から出てくる、足の踏み場も無いほど大発生など、町の住人はパニック、気持ち悪いシーンが続く。顔の皮膚にゴカイが入りこむのは、特殊メイクアーティスト、リック・ベイカーの手腕が発揮されている。

ゴカイのクローズアップは本物が使われており(一部はたぶんゴムホース)「シャー」だの「ピギー」だの変な鳴き声をあげ現実離れ。

ラストはなんとも不気味である。住民はほぼ全滅してしまったのだろうか。

生物パニックでは名の知られた作品だが、グロさは以前レビューしたナメクジ大行進『スラッグス』の方が上回っていると思う。

豆知識

原作には、庭師ロジャー(影の主人公はこの人だと思う)の幼少期のある壮絶な体験が書かれているが、その場面はカットされた

「ランボー/最後の戦場」レビュー(池田)

ランボー/最後の戦場(原題:Rambo)

 

 

2008年アメリカ

予告編

監督:シルヴェスター・スタローン

脚本:アート・モンテラステリ、シルヴェスター・スタローン

製作:アヴィ・ラーナー、ケビン・キング・テンプルトン、ジョン・トンプソン

音楽:ブライアン・タイラー

撮影:グレン・マクファーソン

出演:シルヴェスター・スタローン、ジュリー・ベンツ、マシュー・マースデン、グレアム・マクタヴィッシュ、レイ・ギャレゴス、ジェイク・ラ・ボッツ、ティム・カン、マウン・マウン・キン他

あらすじ

ランボー(スタローン)は戦場を離れタイで静かに暮らしていた。一方、隣国ミャンマーではティント大佐(キン)率いる陸軍部隊が少数民族を虐殺し資源や土地を略奪していた。ある日、ランボーの元へ、アメリカからのNGOの一団がミャンマーへの案内を依頼してきた。一度は断るが、一員のサラ(ベンツ)の熱意に負け、彼らを送り届ける。だが数日後、彼らが軍に捕らえられたと聞かされる。救出するため、雇われた5人の傭兵とともにランボーは再び戦場に身を投じる。

 

 

レビュー

シリーズ3作目『ランボー3/怒りのアフガン』(1988)から20年を経て、スタローンが監督を務めた4作目。このシリーズは続編を重ねるにつれ死者や暴力表現が増しており、本作は残酷描写や人体破損がかなり激しい。映画開始からいきなり少数民族虐殺の実際のニュース映像が流れ、ミャンマーの悲惨な状況が分かり嫌な気分になる。軍による拉致・虐殺行為もはっきり描かれている。

ランボーがNGOを送り届ける(渋々、嫌々といった感情がモロ表情に出ている)途中、海賊に襲われる。リーダーが戦場カメラマンの渡辺陽一そっくり。「有り金全部よこせ」から「その女(サラ)もよこせ」と要求がエスカレート。「女は見逃せ」という言葉をまったく聞き入れないのでランボーは海賊3人を射殺。ものすごい早業。命を助けてもらったのに「なぜ殺した!」と喚くNGO団を「いい子ぶるな!平和ボケども!」と一括するランボーがカッコいい。だいたいこんな危険な地域を武器無しで行こうとしたNGOは無謀だと思うのだが。

 

NGOが村に着き、治療や支給をしているところを軍が襲撃。軍の行為が鬼である。迫撃砲で木端微塵、銃剣で刺し、手足を切り落とし、子供を射殺し、赤ん坊を火に放り込む。水田に逃げたところをマシンガンで蜂の巣にする。見ていて心が重くなる。民間人がここまで悲惨な殺され方をするのが今までのランボーシリーズと一線を画している。

 

その後、ランボーは救出のため5人の傭兵を送り届けるが自身も戦いへ赴く。村人を、爆弾を仕掛けた水田に走らせて遊んでいた兵士を弓で次々殺すあたりから面白くなってくる。兵士の駐在村での戦いで凄かったのは、素手で敵の喉をむしりとるシーン。握力何kgあるのだろうか。

人質を救ったためもちろん追いかけられる。ここでも見所がたくさん。敵がクレイモア地雷に引っかかり爆発するのだが、威力が凄すぎる。

仲間が負傷して敵に捕まり、射殺される寸前にランボー登場。ここから怒涛のクライマックスが始まる。ブローニングM2機関銃(弾丸が10cmくらいある)を奪い、「てめぇらこの鬼畜ども!」といった感じでミャンマー軍に撃ちまくる。サブタイトルをつけるなら『ランボー/怒りの機銃掃射』。1作目では保安官や軍人をできるだけ殺さなかったが、本作ではまったく容赦がない。撃たれた兵士は皆バラバラに飛び散ってしまうが、前半の殺戮行為があるため同情できない。むしろ爽快感が出てくる。映るのは一瞬だが、ランボーに至近距離で撃たれて上半身が無くなるジープの運転手が山口智充に似ている。ランボーを援護する狙撃兵スクールボーイ(マースデン)の活躍もいい。1発で人間の頭が吹き飛ぶ恐ろしい銃、バレットM82を愛用。

 

 

 

91分の上映時間があっという間だった。クライマックスシーンは巻き戻して3回連続で見た。劇場の大画面で見ればよかった。

スタローン曰く「現実はもっと悲惨」。本作以上なことがミャンマーで行われているのか。

「ランボー」レビュー(池田)

ランボー(原題:First Blood)

 

 

1982年アメリカ

予告編

監督:テッド・コッチェフ

脚本:マイケル・コゾル、ウィリアム・サックハイム、シルヴェスター・スタローン

原作:デヴィッド・マレル

製作:バズ・フェイシャンズ

音楽:ジェリー・ゴールドスミス

撮影:アンドリュー・ラズロ

出演:シルヴェスター・スタローン、リチャード・クレンナ、ブライアン・デネヒー、ビル・マッキニー、ジャック・スターレット、マイケル・タルボット、クリス・マルケイ他

あらすじ

ワシントン州。ベトナム戦争から帰還した兵士ジョン・ランボー(スタローン)は戦友を訪ねてきたが、彼は化学兵器の後遺症でこの世を去っていた。失意の中、市街地へ来たランボーを、保安官ティーズル(デネヒー)はトラブルを起こしそうだと決めつけてパトカーで街外れまで連れ出す。それでも戻ってくるランボーをティーズルは逮捕、保安官事務所へ連行し拷問のような取り調べを行う。戦争時の記憶がフラッシュバックし、ランボーは周囲の保安官を倒して山へ逃走。一人の帰還兵VS数百人の警察・軍隊の戦いが始まる。

レビュー

デヴィッド・マレルの小説『一人だけの軍隊』の映画化。『ロッキー』シリーズと並ぶスタローンの代表作。たった一人で警察に抵抗する帰還兵の攻防とベトナム戦争の苦悩を描いている。

 

 

主人公ランボーは思った通りに行動する男。街外れで降ろされてもUターンして戻ろうとする。それが原因で連行されるのだが、見た目で判断され保安官から殴る蹴る、水を浴びせるなどの暴行を受ける。剃刀を顔に当てられる寸前に戦争を思い出して逆上。大暴れして山へ逃げる。

 

自然の中ではランボーの独壇場。銃を持った保安官らを、弓や罠など原始的な武器で次々と戦闘不能にする。プレデターのよう。

 

保安官は軍の協力を要請するがそれでも歯がたたない。ランボー、強すぎる。駆けつけた彼の元上官トラウトマン大佐(クレンナ)にも「先に仕掛けたのはあいつらの方だ」と聞く耳を持たない。幾多の修羅場をくぐり抜けた末「暴力には暴力で」という考えに至ったのだろうか。降伏せずに戦い続けるランボーの行動は好ましくはないが身を守るためであり、悪とは言い切れない。というより登場人物に完全な悪人が存在しない。(序盤の取り調べはさすがに理不尽すぎだが)

終盤、ランボーは泣きながら自身の悲痛な心情を大佐に吐露する。このシーンがいい。「命をかけて国のために戦ったのに、アメリカは帰って来た俺たちを称えるどころか非難する!」うろ覚えだがたぶんこのようなことを言っていた。ベトナム帰還兵の心の内を代弁していたのだろうか。

 

「やられたら徹底的に抵抗する」。「大人気ない」だの「やり返したらそいつと同じだ」だの日常ではマイナスに思われるこの行動がこの映画では全編にわたって行われる。だから面白い。

豆知識

・映画では死者数は少ないが、原作ではかなり死ぬ。一般市民も巻き添えになる

・原作の舞台はケンタッキー州

「グレムリン2 新・種・誕・生」レビュー(池田)

グレムリン2 新・種・誕・生(原題:Gremlins 2 The New Batch)

 

 

予告編

1990年アメリカ

監督:ジョー・ダンテ

脚本:チャーリー・ハース

製作総指揮:キャスリーン・ケネディ、フランク・マーシャル、スティーブン・スピルバーグ

製作:マイケル・フィネル

音楽:ジェリー・ゴールドスミス

撮影:ジョン・ホラ

出演:ザック・ギャリガン、フィービー・ケイツ、ジョン・グローヴァー、ロバート・プロスキー、ロバート・ピカード、クリストファー・リー、ハヴィランド・モリス、ディック・ミラー他

あらすじ

前作の事件から数年後、ビリー(ギャリガン)とケイト(ケイツ)はニューヨークの高層ビル「クランプ・センター」で働いていた。会長のクランプ(グローヴァー)はセンターの拡大を計画しており、立ち退きを拒否していた骨董品店の主人が急逝。店は取り壊され、そこで飼われていたモグワイは逃げ出すが、遺伝子研究所の研究員に捕まってビル内に連れ込まれてしまう。ビリーはモグワイを助け出すが、モグワイはうっかり水を浴びてしまい、大繁殖する。

 

 

 

レビュー

1984年のSFコメディ『グレムリン』の続編。監督のダンテは作品にホラーやSFのパロディをよく盛り込むが、『オペラ座の怪人』や『ランボー』など、本作もパロディの雨嵐(もはや楽屋ネタ)。本編開始前からワーナーのキャラクター、バッグズ・バニーとダフィー・ダックのやり取りがある。

 

舞台となるビルは声で動くエレベーターやプライバシー皆無の管理システムなど漫画チックにハイテク。本編の登場人物もワンマンな会長、嫌味な監視役や昇進を狙う上司、マッドサイエンティストなど様々なキャラが多くて楽しい。

グレムリンの発生シーンはグチャグチャのドロドロで前作同様グロテスク。テナントの遺伝子研究所を乗っ取り、薬品の摂取で高度な知能を持ったり、野菜が生えたりと気持ち悪い変異種が続々現われ、ビル内をパニックに陥れる。

 

本作はかなりメタフィクション要素が多い。劇中で前作の批判をしたりする。特に中盤のあの展開は初見だと驚く。メタフィクションにもほどがある。プロレスラーのハルク・ホーガンまで出てくる。エンドロールにも一工夫あり。本編終了後はまたワーナーのアニメキャラ。

今まで観た映画で、一番メチャクチャな続編であり、おもちゃ箱をひっくり返したような、遊園地のような面白さ。劇中の料理番組のタイトル『いやしんぼ万歳』に笑えた。相変わらずモグワイは可愛い(特にダンスを踊るところ)。前作を観てから観るべき。メインテーマが脳内ループする。

豆知識

・ヨーグルト屋の客の一人は音楽担当のジェリー・ゴールドスミス

 

・ビル内にミスター・ドーナツがある

・出っ歯のグレムリン”レニー”のモデルは、ディズニーのグーフィー

 

 

・ディレクター役にジョー・ダンテ

「ゴースト・シャーク」レビュー(池田)

ゴースト・シャーク(原題:Ghost Shark)

 

 

予告編

2013年アメリカ

監督:グリフ・ファースト

脚本:エリック・フォースバーグ、グリフ・ファースト

製作:ケネス・M・バディッシュ、グリフ・ファースト

音楽:アンドリュー・モーガン・スミス

撮影:アンドリュー・ストラホーン

出演:ブルック・ハーリング、デイヴ・デイヴィス、スローン・コー、リチャード・モール、ジェイレン・ミッチェル、ラッキー・ジョンソン、トム・フランシス・マーフィ他

あらすじ

港町スモールポートの沖合で一頭のサメが賞金稼ぎの親子に爆撃される。洞窟に流れ着いた瀕死のサメは幽霊となって復活。陸上にも現れるようになり住民を襲う。

 

レビュー

部員の新川が紹介していて興味を持ち、準新作になるのを待って鑑賞した作品。近年のB級映画にありがちな安っぽいCGを多用したアニマルパニック。半透明の幽霊ザメが陸上に出没するというアイデアが面白い。

オープニングからツッコミどころ満載。釣り船になぜ激辛ソースがあるのか、手榴弾があるのか。

 

幽霊ザメは水のある場所ならどこにでも出現する。海水浴場、民家のプールはもちろん、水道管や水溜まり、スプリンクラーからも出てくる。洗車場のくだりは実にバカバカしい。『ジョーズ』同様、子供にも容赦がない。そしてウォーターサーバーから水を飲んだ男の最期は凄かった。

 

 

なぜサメが幽霊になったかの説明は、後半はまともに見てなかったのでよく分からなかった。

ラストの台詞が『ジョーズ』と同じ。