「悪魔のサンタクロース 惨殺の斧」レビュー(池田)

悪魔のサンタクロース 惨殺の斧(原題:Silent Night, Deadly Night)

 

 

予告編

1984年アメリカ

監督:チャールズ・E・セリアー・Jr

脚本:マイケル・ヒッキー

製作:アイラ・リチャード・バーマック

音楽:ペリー・ボトキン

撮影:ヘニング・シェラーアップ

出演:リリアン・ショーヴァン、ギルマー・マコーミック、トニー・ネロ、ロバート・ブライアン・ウィルソン、ブリット・リーチ、ナンシー・ボーゲニクト、H・E・D・レッドフォード他

あらすじ

1971年ユタ州。祖父の見舞いから帰る途中、ビリーはサンタの格好をした強盗に両親を殺される。弟リッキーと孤児院で過ごすことになるが、院長(ショーヴァン)は厳格なシスターで「悪戯と性行為は悪いこと」と教育される。数年後、ビリー(ウィルソン)は玩具店に就職するが、クリスマスセールの日にサンタの格好をさせられ、抑えていた感情が爆発。斧を手にして夜の街に繰り出す。

 

 

レビュー

記念日や祝日をテーマにしたホラーは多い。例えば

バレンタインデー…『血のバレンタイン』(1981)、『ブラッディ・バレンタイン3D』(2009)

エイプリル・フール…『ブラッド・エイプリル・フール』(1986)、『エイプリル・フール』(1986)

母の日…『マザーズデー』(1980)

ハロウィン…『ハロウィン』シリーズ

感謝祭…『Thankskilling』(2009)

クリスマス…『暗闇にベルが鳴る』(1974)、『サンタが殺しにやってくる』(1980)、『クリスマスまで開けないで』(1984)、『サタンクロース』(2005)

など。探せば他にもたくさんある。

本作は「サンタが人を殺す」という子供の夢をぶち壊す内容がキリスト教団体やPTAから非難を浴び、州によっては上映禁止になるという騒動があった。

殺人に至る過程がしっかりしている。幼少期にあんな体験をしたらクリスマスが大嫌いになるのも仕方ない。トナカイを殺すサンタの絵を描いたり、孤児院に来たサンタをぶん殴ったりする。クリスマスにいかがわしい行為をする人々に制裁を加えるのは、秋田のなまはげのよう。

豆知識

祖父役のウィル・ヘアは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)に出演している

 

←サンタの怖い話をする祖父

 

←松の木を倒されたピーボディ氏

「処刑教室」レビュー(池田)

処刑教室(原題:Class of 1984)

 

 

予告編

1982年カナダ

監督:マーク・L・レスター

脚本:トム・ホランド

製作:アーサー・ケント

音楽:ラロ・シフリン

撮影:アルバート・J・ダンク

出演:ペリー・キング、メリー・リン・ロス、ティモシー・ヴァン・パタン、ロディ・マクドウォール、ステファン・アーングリム、キース・ナイト、アル・ワックスマン他

あらすじ

暴力校で有名なエイブラハム・リンカーン高校に音楽教師として転任してきたノリス(キング)。持ち物検査は毎日、教師が銃で護身するなどあまりの荒れ様に愕然。札付きのワルのステッグマン(パタン)のグループに目をつけられる。校長や警察は「証拠が無い」と嫌がらせ行為を黙認。自分の大切な存在にまで被害が及び、ノリスは反撃を余儀なくされる。

 

 

レビュー

監督はシュワルツェネッガー主演『コマンドー』(1985)のマーク・L・レスター。

「教師vs不良」の作品だと次のような展開がお決まりではないだろうか。最初は対立するが、話が進むにつれて意外といい奴、情に厚く仲間思いという面が見えて最後は感動的に終わる。イケメン俳優やアイドルを起用するのが定番。

しかし本作にそんな展開は無い。出てくる不良生徒は武器を所持し、授業妨害、校内暴力、麻薬売買を行い、カッコよさや男らしさは皆無。警備員は教師よりも生徒の言うことを信じ、校長は事なかれ主義、刑事も証拠が無いからと立件できない。家庭訪問の場面では息子の言うことすることをすべて肯定する親が出てきて、イライラする。

こんな学校だが、学業や課外活動に打ち込む真面目な生徒もいる。その一人を演じるのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの主人公役のマイケル・J・フォックス。おかっぱ頭でぽっちゃりしている。『バック~』のイメージと違う。

 

主人公の同僚で、理科室の動物を殺された生物教師が銃で不良生徒を従わせる場面は、今の時代では作れないだろう。生徒は野放しで教師だけに責任を問われるのが、見ていて胸が痛い。

 

嫌がらせや暴言に我慢できなくなった主人公は徐々に反撃。「証拠があるのか?」と自分が言われてきた言葉を相手に返すのが爽快。大人げないとも思うが。最後は主人公vs不良グループの対決。あんなことをされたらいくら生徒でもさすがにキレる。邦題の通り生徒を「処刑」していく。ラストのテロップは伏線が効いている。

主役を演じたキングが災害パニック『デイ・アフター・トゥモロー』(2004)に大統領役で出演していたのが驚き。

「道化してるぜ!」レビュー(池田)

道化してるぜ!(原題:Stitches)

 

 

予告編

2012年アイルランド

監督:コナー・マクマホン

脚本:コナー・マクマホン、デヴィッド・オブライエン

製作:ジュリアン・フォード、ブレンダン・マッカーシー、ジョン・マクドネル、ルース・トリーシー

音楽:ポール・マクドネル

撮影:パトリック・ジョーダン

出演:ロス・ノーブル、トミー・ナイト、シェーン・マーレイ・コーコラン、ジェマ・リア・デヴェロー、トーマス・ケイン・バーンズ、イオガン・マックィン、ロイシン・バロン、ヒュー・マルハーン他

あらすじ

トムの10歳の誕生日パーティーに呼ばれたピエロのスティッチーズ(ノーブル)。トムの友人たちは彼をからかいまくり、悪戯の度が過ぎてピエロは事故死する。6年後、高校生になった彼らは、トム(ナイト)の誕生日に再びパーティーを開催するが、ピエロが復讐のために蘇った。

 

 

レビュー

ピエロ恐怖症というのがある。文字通りピエロの奇抜な風貌に極端に恐怖心を抱く症状である。ピエロを悪役にした作品は多い。代表的なのは『キラークラウン』(1988)、『イット』(1990)、『デス・バーガー』(2007)、『ブラッディピエロ』(2007)、『マーダー・ライド・ショー』シリーズなど。

本作は子供の悪戯で死んだピエロの復讐劇。アイルランドの映画を初めて鑑賞した。邦題のセンスがすごい。オープニングのピエロの死はショッキング。あんな場所にあんな向きで包丁を置くトムの母親がどうかしてる。

事件の元凶となった子供たちは高校生になり(ダサく育った感がある)、今度は家一軒を丸々使い、クラス中の生徒を呼び大規模なパーティーを開く。盛り上がってきたところに、墓からピエロが甦り殺戮を開始。標的がティーンエイジャーになるまで待っていたピエロはホラーのお約束が分かっている。

 

 

意外なのが、バカ騒ぎする学生がたくさんいるのに、自分の死に関与した人しか殺さないことである。そのため殺害人数は少ない。しかし、缶切り、傘、空気入れなど、職業がピエロだけあって独特な方法で殺すのでつまらなくない。口から生きたウサギが出たり、小腸でバルーンアートもする。頭を空っぽにして見るべき映画。

「ミート・ザ・フィーブルズ」レビュー(池田)

ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス(原題:Meet the Feebles)

 

 

予告編

1989年ニュージーランド

監督:ピーター・ジャクソン

脚本:フランシス・ウォルシュ、スティーヴン・シンクレア、ダニー・マルヘロン、ピーター・ジャクソン

製作:ジム・ブース、ピーター・ジャクソン

音楽:ピーター・ダゼント

撮影:マレイ・ミルネ

声の出演:ダニー・マルヘロン、ドナ・アカーステン、スチュアート・デヴェニー、マーク・ハドロウ、ロス・ジョリー、ブライアン・サージェント、ピーター・ヴェレ・ジョーンズ他

あらすじ

12時間後にテレビ生放送を迎えるフィーブルズ劇団。ハリネズミのロバートはスターになることを夢見て入団する。だがその裏側は汚職、暴力、ドラッグが横行する世界だった。団員たちの各々の問題はひどくなっていき、生放送中にもトラブルが続出。そして歌姫のカバ、ハイジが劇団を崩壊に導く。

 

 

 

レビュー

ピーター・ジャクソンの初期の作品。人間は一切登場せず、動物のぬいぐるみと着ぐるみのみ。しかし子供に見せてはいけない内容。一言で言うと成人向きセサミ・ストリート。ほとんどのキャラクターが社会的に汚れている。

性病のウサギの俳優、麻薬漬けのカエルの剣投師、麻薬を売るセイウチのプロデューサー、その秘書でネズミのAV監督、ゴシップ狙いのハエの記者などが出てくる。実写だったら絶対にR18。

 

 

ぬいぐるみが全然可愛くない。デフォルメが激しく気持ち悪い。何の動物をモチーフにしたのか分からないのもいる。トイザらスには陳列できない造形。ぬいぐるみのデザイナーはキャメロン・チトックという人で、『バッド・テイスト』に宇宙人役で出演しているらしい。

事故や殺しで、登場人物は簡単に死ぬ。飛び出るのは綿ではなく血と内臓。そこら辺がリアルになっている。

ストーリーが進むにつれて暴力描写がUP。麻薬を巡ってマフィア映画みたいな殺し合いも起こる。クライマックスは歌姫のカバが『ブレインデッド』並みの殺戮を開始する。

 

 

こんな映画だが、音楽のレベルは高い。メインテーマの”Meet the Feebles”やコーラスの練習曲”One Leg Missing”、エンディングの”Garden of Love”などは耳に残る。ゲイの想いを歌った”Sodomy”は歌詞がストレートすぎる。

 

←ジャクソン監督

 

←製作風景

豆知識

生放送シーンの観客に『バッド・テイスト』の宇宙人がいる

「悪魔のゾンビ天国」レビュー(池田)

悪魔のゾンビ天国(原題:Redneck Zombies)

 

 

予告編

1987年アメリカ

監督:ペリクレス・レウニス

脚本:フェスター・スメルマン

製作:エドワード・ビショップ、ジョージ・スコット、ペリクレス・レウニス

音楽:エイドリアン・ボンド

撮影:ケン・デイヴィス

出演:リサ・M・デヘイヴン、ウィリアム・E・ベンソン、ウィリアム・リヴィングストン・デッカー、ティローン・テイラー、アンソニー・バーリントン・スミス、ジェームズ・H・ハウスリー他

あらすじ

メリーランド州の田舎町。陸軍のジープからドラム缶が落下し、中身が酒の蒸留器に混入してしまう。中身は放射性のプルトニウムで、出来上がった酒を飲んだ村人はゾンビに変身。キャンプに来ていたグループやドラム缶を取り返しに来た軍人を襲う。

 

 

レビュー

以前紹介した『悪魔の毒々モンスター』と同じくトロマ社の作品。全編ビデオカメラで撮影されたらしく画質が悪い。登場人物は野暮ったくてみすぼらしく、本当のホワイトトラッシュ(白人の貧困層)に見える。スタイルの良い人物が一人もいない。

酒(メロンシロップみたいなグリーン)を飲んでゾンビに変身するシーンは反転、ぼかし、トランジションを滅茶苦茶に用いており、酔ってくる。

 

 

襲われるシーンはグロいというより汚い。汚すぎる。

おかしいヒッチハイカー、ストリップ番組、女性監禁など本編に全然関係ないことを所々に入れている。

後半は大量にゾンビが出てくるが、最初の方のゾンビとはえらい落差。顔を白く、目元を黒く塗っただけ。メイク係が手を抜いたとしか思えない。

豆知識

製作費は10000ドル

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」レビュー(池田)

ウルフ・オブ・ウォールストリート(原題:The Wolf of Wall Street)

 

 

予告編

2013年アメリカ

監督:マーティン・スコセッシ

脚本:テレンス・ウィンター

原作:ジョーダン・ベルフォート

製作:リザ・アジズ、レオナルド・ディカプリオ、ジョーイ・マクファーランド、マーティン・スコセッシ、エマ・ティリンジャー・コスコフ

撮影:ロドリゴ・プリエト

出演:レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マーゴット・ロビー、マシュー・マコノヒー、カイル・チャンドラー、ロブ・ライナー、ジョン・バーンサル、ジョン・ファヴロー他

あらすじ

ニューヨークのウォール街。株ブローカーのジョーダン・ベルフォート(ディカプリオ)は数人の仲間と「ストラットン・オークモント社」を設立。富裕層を狙った巧みな話術で、瞬く間に大企業へ成長させ億万長者に。ドラッグ、セックス、パーティーの豪遊ライフを送るようになるが、そんな生活は長くは続かなかった。

 

 

レビュー

実在のブローカー、ジョーダン・ベルフォートの著作『ウォール街狂乱日記-「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』を原作としたブラックコメディ。

本当に『タクシードライバー』(1976)(アメリカの汚れた裏側を描いた名作)、『グッドフェローズ』(1990)(ジョー・ペシ怖すぎる。『ホーム・アローン』の間抜けな泥棒役とは思えない)のスコセッシの作品なのか?『タイタニック』のディカプリオか?と思えるくらい下品で、R18なのが当然の内容。登場人物ほとんどが欲望全開(主に肉体的に)で、映画の8割をドラッグとセックスが占める。

 

ディカプリオはこんな役をよく演じたものだと思う。中指を立てながら顧客に電話し、バカ丸出しでドラッグを吸い、ナイスバディに目がくらみ妻と離婚して胸を叩く。清々しいほど欲に忠実すぎて全く感情移入できなかった。早く破滅してしまえと思っていた。

評価は賛否がバッサリ分かれる。ネットでは「サイコー」「超面白い」「傑作」の意見もあれば、「下品すぎ」「受け付けない」「途中で止めた」の意見もある。確かに上映時間が長すぎる。あっという間には感じなかった。座りっぱなしで尻が痛くなった。

マシュー・マコノヒーが面白い。序盤に少しだけの登場だがインパクトは強かった。

 

主人公の父親役は『スタンド・バイ・ミー』(1986)の監督ロブ・ライナー。登場人物の中では常識人だが短気。「火曜の夜に電話するな!」「援交費だろ!」が印象に残る。

 

 

批判的な感想が多くなったが、それほど強烈な内容だということである。

1997年に『タイタニック』が日本で公開された時、メディアはディカプリオを「レオ様」と表現し日本の女性を夢中にさせた。当時、後にディカプリオがこんな映画に出演するとは夢にも思わなかっただろう。

個人的に面白かったシーンベスト3

①マシュー・マコノヒー

②帰宅したらゲイが〇交

③ポパイをBGMに救命措置

豆知識

・劇中で使われた「fuck」の回数は506回。非ドキュメンタリー作品では史上最多。他に「fuck」の回数が多い映画で思いつくのは、『パルプ・フィクション』(1994)と『悪魔の毒々ボウリング』(2008)

・ラスト近くでジョーダン・ベルフォートが司会者役で出演

「ロジャー・ラビット」レビュー(池田)

ロジャー・ラビット(原題:Who Framed Roger Rabbit)

 

 

予告編

1988年アメリカ

監督:ロバート・ゼメキス

脚本:ジェフリー・プライス、ピーター・S・シーマン

原作:ゲイリー・K・ウルフ

製作:フランク・マーシャル、ロバート・ワッツ

製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、キャスリーン・ケネディ

音楽:アラン・シルヴェストリ

撮影:ディーン・カンディ

出演:ボブ・ホスキンス、クリストファー・ロイド、ジョアンナ・キャシディ、チャールズ・フライシャー、スタッビー・ケイ、アラン・ティルヴァーン、リチャード・ルパーメンティア他

あらすじ

舞台はトゥーン(アニメキャラ)が現実世界に存在する、1947年のハリウッド。人気スターのロジャー・ラビット(声:フライシャー)は妻ジェシカが浮気しているという噂のせいでスランプ気味。探偵エディ(ホスキンス)に調査を依頼するも、浮気相手が殺され、ロジャーに容疑がかかってしまう。二人は協力して潔白を証明しようとするが、この事件には大きな陰謀がからんでいた。

 

 

レビュー

実写とアニメーションの合成作品。レベルの高さから視覚効果・編集・音響効果の3つの部門でアカデミー賞を受賞した。アメリカを代表するアニメキャラクターが総出演。

ディズニーからミッキー、ミニー、ドナルド、ピノキオ、ダンボ

メトロ・ゴールドウィン・メイヤーからドルーピー

ワーナーからバッグス・バニー、トゥイーティー、シルベスター、ダフィー・ダック

パラマウントからベティ・ブープ

ユニバーサルからウッディー・ウッドペッカー

など、豪華な面々が並ぶ。マニアでないとわからないマイナーなキャラ(ヒヤシンス・ヒッポ、ブレア・ベア、トード氏など)も登場。本作オリジナルのキャラも個性的。彼らが人間とコミカルでスラップスティックなストーリーを巻き起こす。アメリカのアニメが好きなら楽しめる。

 

 

豆知識

・スピルバーグはポパイ、トムとジェリーも出演させたかったが許可が下りなかった

・東京ディズニーランドに本作がテーマのアトラクション『ロジャーラビットのカートゥーンスピン』がある

「ブラッディピエロ 100人連続切裂き」レビュー(池田)

ブラッディピエロ 100人連続切裂き(原題:100 Tears)

 

 

※予告編は掲載せず

2007年アメリカ

監督:マーカス・コッチ

脚本:ジョー・デヴィソン

製作:アラナ・ベーカー、エルマー・バーガー、ジョー・デヴィソン

音楽:クリスチャン・デイ、カール・ホーマー

撮影:ウェスリー・ウィング

出演:ジョージア・クリス、ジョー・デヴィソン、レイン・ブラウン、ジャック・エイモス、キブウェ・ドーシー、ロッド・グラント、ノーバート・サンティアゴ、ジェフ・ディラン・グラハム他

あらすじ

更生訓練施設で殺人事件が発生。新聞記者のジェニファー(クリス)とマーク(デヴィソン)は調査に乗り出す。目撃証言等から、ピエロの格好をした男によるものと判明。ピエロの犠牲者はどんどん増えていく。

 

 

レビュー

監督は特殊メイクアーティストのマーカス・コッチ。メタボなピエロが巨大な包丁で殺しまくるスプラッターホラー。殺害シーンは非常に過激で、映画開始10分で虐殺が始まる。四肢や首がポンポン飛び、血糊の量も多いが、血と内臓を詰め込んだ人形を乱雑にぶった切るという感じで安っぽい出来。それでも、慣れてない人にはかなりきつい描写だと思う。一方でストーリーや構成はかなり陳腐。グロいシーンを撮りたいためだけに作られた映画なのではと思えてくる。

 

 

殺される人の数は多い。あまりにもスピーディにサクサク殺されるので誰が誰だが分からない。邦題の100人までとはいかないが、20人近く殺されている。これは『新・13日の金曜日』(1985)(13金シリーズの5作目)の死者数21人に匹敵する。

殺人鬼のピエロには娘がおり、この娘も異常者。後半は父親と協力して無差別殺人を開始し、画面中が血の海になるが、どう見てもゴム製の腸、どう見てもマネキンの頭部など、ここでも安っぽさ全開。

 

内容以上に衝撃的だったのは日本語吹替えである。うろ覚えだが、以下に例を紹介する。

・字幕「コーヒーお待たせしました」→吹替え「うどんお待たせしました」

・字幕「今度おごらせてくれないか」→吹替え「今度ハイヒールで踏んでくれないか」

・字幕「スポール刑事から聞いた」→吹替え「クドウマサルから聞いた」

・調理人が「今夜は沖縄料理さ~。あぁ、サーターアンダギー食いたい」

・車椅子の女性が「どすこい、どすこい」

他にも、いきなり方言(茨城弁らしい)になったり、「からあげクンの食い過ぎだ」、断末魔が「痛ーい」、「ブヒッ」などバカげた吹替えが飛び交う。吹替え声優陣は聞いたことない人たちばかり。キャスト、スタッフのインタビューは字幕がないので内容は理解できず。隅から隅まで滅茶苦茶な映画だった。しかし、一見の価値ありの吹替えだと思う。バカバカしすぎるから。

「悪魔の毒々モンスター」レビュー(池田)

悪魔の毒々モンスター(原題:The Toxic Avenger)

 

 

予告編

1984年アメリカ

監督、製作:マイケル・ハーツ、ロイド・カウフマン

脚本:ジョー・リッター、ロイド・カウフマン

音楽:マーク・ホフマン、ディーン・サマーズ

撮影:ジェームズ・ロンドン、ロイド・カウフマン

出演:アンドリー・マランダ、ミッチェル・コーエン、ジェニファー・バプティスト、シンディ・マニオン、ロバート・プリチャード、ゲイリー・シュナイダー、パット・ライアン・Jr、マーク・トーグル他

あらすじ

化学汚染がひどく治安も悪いニュージャージー州トロマヴィル。フィットネスクラブで清掃員として働くメルヴィン(トーグル)は不良の客からいつもバカにされていた。エスカレートしたいじめの果てに、彼は有毒廃棄物のドラム缶に転落してしまう。全身が焼けただれ死んだと思われたが、汚染物質の作用によりマッチョで醜い大男「毒々モンスター」に変身。悪を倒すという欲求が芽生え、町にはびこる悪党を退治していく。

 

 

 

 

レビュー

製作はトロマ・エンターテインメント。ロイド・カウフマン(名門私立イェール大学出身)とマイケル・ハーツが1974年に設立した映画会社である。ほとんどの作品が下品でくだらなく、劇場公開に向かないものばかりだが、一部でカルト的人気を誇る(有名人では関根勤がトロマのファン)。

 

 

登場人物は揃いも揃って間抜けで、ファッションセンスがおかしい。メルヴィンは見るからにひ弱でダサい。ジャグジーバスにモップを突っ込んで客にボコボコにされる。彼をいじめる不良グループは筋トレしながら麻薬を吸い、ロッカールームで交わり、ゲーム感覚で子供をひき殺す極悪集団。肥満体の市長は賄賂や汚職をしまくり悪を擁護。まったく感情移入できないが、このバカバカしい設定がトロマ作品の魅力かもしれない。

 

 

汚染物質を浴びたメルヴィンはモンスターに変身。ここら辺の説明は一切ない。悪を倒す欲求が生まれ、平和を乱す悪党を殺しまくる。全体的にコミカルなのに、ミキサーを口に入れたりトレーニングマシンのおもりで潰したりと殺害シーンはグロくて残虐。度を超した人体破壊もトロマの特徴である。悪人しか殺さず、一般市民には親切なのでモンスターは町の人から支持される。恋人までできる。(醜い彼をなぜ好きになれたのか、それには理由がある)

 

 

結構面白い作品だが、あまりに下品なので好き嫌いは分かれる。コメディの部類に入るがグロが無理なら見てはいけない。

豆知識

・ロイド・カウフマンはスタローン主演の『ロッキー』(1976)に出演している

・本作は全4作でシリーズ化されている。続編の「悪魔の毒々モンスター東京へ行く」(1989)の舞台は東京。安岡力也、関根勤、漫画家の永井豪(代表作はデビルマン、マジンガーZ、キューティーハニー)が出演

「ドゥ・ザ・ライト・シング」レビュー(池田)

ドゥ・ザ・ライト・シング(原題:Do the Right Thing)

 

 

予告編

1989年アメリカ

監督、脚本、製作:スパイク・リー

音楽:ビル・リー

撮影:アーネスト・ディッカーソン

出演:ダニー・アイエロ、オシー・デイヴィス、ルビー・ディー、リチャード・エドソン、ジャンカルロ・エスポジート、スパイク・リー、ビル・ナン、ジョン・タートゥーロ他

あらすじ

この夏最高に暑い日を迎えようとしている、ブルックリンのベッドフォード・スタイヴェサント地区。黒人が多いこの町で、イタリア系アメリカ人サル(アイエロ)の経営するピザ屋は25年にわたって町民に愛されてきた。だがその日は、配達係ムーキー(リー)の友人バギン・アウト(エスポジート)が、壁に飾られている写真がイタリア系の有名人ばかりであることに言いがかりをつけてきた。これが発端となり、彼らの人種間の軋轢が表に出始める。

 

 

レビュー

監督は人種差別、貧困、麻薬など重苦しい作品(『スクール・デイズ』(1988)、『ジャングル・フィーバー』(1991)、『マルコムX』(1992)、『クロッカーズ』(1995)など)が多いスパイク・リー。出演もしており、本作ではやる気のないピザ配達人を演じる。

 

黒人街が舞台だが、ピザ屋のイタリア系親子、商店の韓国人夫婦、プエルトリコ系の若者グループ、白人の警官などさまざまな人種が登場する群像劇。夏の暑さの表現がうまく、登場人物の不快、イライラが伝わってくる。

 

 

飲んだくれだが哲学的な老人、巨大ラジカセを持ち歩く男、どもりながら写真を売る男、無駄話ばかりの中年三人組など個性の強いキャラクターが多くて面白いが、露骨な人種差別表現は見ていて気分のいいものではない。カメラ目線での偏見発言5人連続のシーンはすごい。

 

 

終盤に近づくにつれて(表面的に)良好だった人間関係が崩れてゆき、悲しい事件が勃発。誰も得しない形で終わってしまう。名作、傑作とは思わないが、私は何度も鑑賞してしまう。

豆知識

・狂言回し的な存在のラジオDJを演じるのは、無名な頃のサミュエル・L・ジャクソン

 

・音楽を担当したビル・リーはスパイクの父で、ジェイド役のジョイ・リーはスパイクの妹

・白人警官二人組、ポンテとロングは『ジャングル・フィーバー』でも同じ役で出演。さらにロング役のリック・アイエロはダニーの息子

・黒人の若者グループの一人は、『バッドボーイズ』シリーズでウィル・スミスと主演を務めたマーティン・ローレンス。ほぼデビュー作