2023年度春新歓ブログリレー#3

文学部四年で映研も四年目の古川と申します。今回はブログリレーということで、M・ナイト・シャマラン監督の、『レディ・イン・ザ・ウォーター』について、メタ的な視点から評価してみようと思います。少し長くなってしまいますが、お付き合い下さい。

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M・ナイト・シャマラン監督は、『シックス・センス』や『アンブレイカブル』のような高く評価される作品で有名な一方、『エアベンダー』や『アフター・アース』のような、鳴かず飛ばずの映画を作ってしまう監督でもある。今回はその中でもあまり評価されていない方の作品、『レディ・イン・ザ・ウォーター』について、一度の視聴による曖昧な理解に基づくものだが、敢えて評価してみたいと思う。
そもそも『レディ・イン・ザ・ウォーター』は、大手映画サイトで軒並み低評価(映画.comで2.4/5、Filmarksで2.9/5、IMDbで5.5/10・Metascore36 2022/5/7時点)という、なんとも微妙な映画である。確かに、脚本を追う見方をすればあまり面白くない映画かもしれないが、その実、レベルの高いことをやっている。この映画を評価するには、映画というメディアそれ自体への理解が少し必要なように思うので、まずはそれについて説明しておこう。
映画に限らず、小説や劇といった芸術作品は、「私が見て、あなたが見られる」というような、上位者である観客と下位者である作品の上下関係が成立しており、そもそもメタ的である。そのメタ性は我々観客が一々「これは映画だから云々」ということを考えないように、普段は覆い隠されている。例えば『ジュラシック・パーク』で恐竜が登場人物を襲う一方カメラマンはスルーすることに違和感が無いのは、それが現実をそのまま映したドキュメンタリー的作品ではないことを観客が当たり前に分かっているからである。観客は、映画のメタ性が隠されていることを知りつつも、そのことをはっきりと認識せずに映画を楽しむ事ができる。一方で、そのメタ性を顕在化させることを厭わない作品もある。そのアプローチは多様にあり、『デッドプール』のように主人公が観客に語りかけることで映画内現実から映画外現実への干渉を目指すものや、『大人は判ってくれない』の最後のように主人公がカメラを見据えることで「見る私と見られるあなた」という関係を倒錯させるもの等が挙げられる。
以上を踏まえた上で、『レディ・イン・ザ・ウォーター』ではどのようなことが行われているだろうか。この映画はそもそも、ヒープという男性の管理するマンションに人魚が現れ、ヒープがそれを保護するところからはじまる。この出来事とおとぎ話の関連に気がついたヒープは、おとぎ話に従って行動する事で映画を駆動させる主人公の役割を果たす。主人公がおとぎ話に従って行動するということは、脚本はおとぎ話そのままになるわけで、大人にとってその脚本を楽しむ事は難しいかもしれない。ここから一般的評価が芳しくないことは十分理解できる。そのため、これから説明することは脚本的理解による低評価を贖う事はできないのだが、しかしやはりこの映画を低評価のみに埋もれされておくには惜しいように思われてならず、別の側面からの評価を試みたい。
映画がメタ的である事が普段は覆い隠されているというのは先程述べたが、この映画は冒頭からメタ性が顕にされる。主人公のヒープという名前が発話されるとき同時に女性のお尻が映されるのだが、これはheepとhipの類似による言葉遊びである。この事は、カメラが主観的視点である事を明示し、見る我々の上位性を明らかにする(注:何度も言うが、映画のカメラはそもそも主観的で、映画はそもそもメタ的である。ただその事を意識するかどうかは監督の匙加減と、観客の映画的経験や年齢、視聴態度などにかかっている。ここでは、そのメタ性を観客層に関係なく気づかせるようにカメラが配置されることを述べている。)。あるいは映画終盤において、怪物に相対した人物が自身を映画の登場人物として仮構し、
「ホラー映画であれば(私のような)嫌われ者は殺されてしまうが、家族映画であればそのような人物は助かって心を入れ替える。これは多分ホラー映画ではないから、ここで逃げれば私はタッチの差で助かるというわけだ。」
とカメラを直視しながら発言するも結局殺されるというシーンは、メタ的視点から非メタ的視点への移行を、あるいはストーリーに具体的な考察を加える者がストーリーに取り込まれてしまうことを表している。
では、『レディ・イン・ザ・ウォーター』においてメタ性が顕在化したり、その移行が描写されたりするのはどのような意味を持つのだろうか。それは、この映画が映画内寓話を映画内現実として結実させることによって成立する、根源的にメタ性を内包した映画だからである。『レディ・イン・ザ・ウォーター』が特殊なのは、普通の映画が「観客→映画内現実」という一本の関係性で成り立ち、映画内現実が観客の現実に干渉することはないのに対し、「観客→映画内現実→映画内寓話」という二重の関係性に則っており、その映画内寓話がメタ的な壁を突破して映画内現実として観客に供されるというプロセスを踏むことで、帰納的に映画内現実が観客の現実にまで遡行するような錯覚を与えるところにある。このことは、『レディ・イン・ザ・ウォーター』の根幹に位置する主題であり、観客にこれを認識してもらわないとこの映画の面白さはいまいち伝わらない。だから、heepと言いながらhipが映されたり、登場人物が不自然なまでにメタ的な発言をしたりすることで、観客の映画に対する上位性と、なおかつそれが移行しうることを理解してもらおうとしているのである。
結果としての一般的評価を見る限り、このシャマランの試みはうまくいかなかった。しかしその破られるメタ性という表現は、恐竜に襲われることはないと安心しきっている観客にぐっと距離を詰める斬新なもので、脚本がつまらないことだけで切り捨てられるべき作品ではないはずである。

個人的に好きなブライス・ダラス・ハワードが出演していることから興味を持った作品ですが、あまりの評価の低さに納得がいかず、ここまで長々と書いてみました。願わくば、読んだ人の映画理解の一助になれば幸いです。
北大映画研究会には、こんな感じでジリジリと映画について考える部員もいるし、映画を撮りたい部員もいるし、あるいは映画はそんなに好きじゃなくてもアニメや音楽等他のサブカルが好きな部員もいます。気になった方は、ぜひ例会や撮影会に顔を出してみてください。ここまで読んでくださってありがとうございました。

春新歓ブログリレー#3

初めまして、北大映研部長の古川と申します。春新歓に向けて行っているブログリレーの第3回目になります。ブログリレーではなんでも適当に書いてもらって良い、ということにしているのですが、今回は新入生に向けた適当なアドバイスと、好きな映画を一本適当に紹介しようと思います。

まずは適当なアドバイス。新入生のほとんどはちょっと前まで高校生だったと思いますが、ご存知のように高校と違って大学では自分である程度自由に授業を組むことができます。それによって例えば金曜日は全休にして毎週三連休を錬成するといったことが可能なわけです。モラトリアム万々歳ですね。そしてどの授業を受けるかを決めるには、「履修登録」というのをしなければなりませんが、これがちょっと曲者で、特に初めてやるとなると結構難しいと思います。履修登録をミスると、必修の単位が足りなくなったり、授業が一回もないといったことまで起こりえます(「自由には責任が伴う」とはまさにこのこと)。事前に便覧をよく読んでおいて、分からなかったらすぐ誰かに聞きましょう。

では、映画紹介の方を。今回紹介するのはトムクルーズ主演の「アウトロー」(原題:Jack Reacher)になります。5502BCCF-2DA8-46C0-B165-6FB48407616E

ジェラルドバトラーが出ている方(「ザ・アウトロー Den Of Thieves」)ではありません。あっちもいい映画ですけどね。ネタバレをしない程度にあらすじを話すと、銃乱射事件の容疑者として捕まった退役兵が、「ジャックリーチャーを
呼べ」というメモ書きを残し、他の受刑者からリンチを受けて昏睡状態になってしまいます。唯一の参考人となったリーチャーが容疑者の弁護士と共に独自の捜査を始めると、意外な真実が明らかになっていき…というのが主な流れです。最近はアクションもりもりにされがちなトムクルーズにとって、そこそこのアクションとシリアスなストーリラインも相まってかなりはまり役だと思っているのですが、いまいちな知名度ですね。しかも二作目がコケるという…。トムクルーズって昔は演技力で勝負するような映画にも出てたと思いますが、最近は本当にアクションモノが多いです。どうなってもトムクルーズはかっこいいのでいいんですけど、たまにはシリアスで落ち着いたトムが見たい!そんな僕みたいな懐古厨にもこの映画はおすすめできます。

皆さんには「この一本!」という映画がありますか?北大映画研究会の主な活動は部内完結で映画を撮ることですが、映画が好きなだけという人も多いです。「映画を撮ってみたい」という人はもちろん、「ちょっと映画について話してみたい」「映画じゃなくてドラマとか好きなんだけど」といった、いろんな人の入部を歓迎します!4月に対面とzoomでの説明会を企画しているので、是非ご参加ください。

秋新歓ブログリレー#1

皆さんこんにちは。この度代替わりで部長になりました、2年の古川です。秋新歓に向けて、また代替わりの告知もかねてブログリレーをすることにしました。これから一・二年が定期的に簡単な記事を投稿していきます。

初回は、簡単に映研の活動について触れておこうと思います。映研は、基本的には部員同士で脚本、役者、カメラ等分業して映画を撮ろう、というサークルです。これまではコロナの影響でほとんどそういう撮影はできませんでしたが、最近になって活動できるようになってきました。映画を作ってみたい方、映画に出てみたい方、そこまでじゃないけど映画好きな方、ちょうど撮影を再開しつつある時期なので、ぜひ。

映研のブログですから、映画紹介でもして終わろうと思います。今回僕が紹介するのが、「最後の決闘裁判(原題:The Last Duel)」です。ブレードランナーやエイリアンで有名なリドリースコット監督の作品で、決闘によって善悪を決める(神は正しいほうに味方するので、善い者が勝つ)という「決闘裁判」の、歴史上最後に行われたとされるものを描いた作品です。最後の決闘シーン182556_02の迫力は言わずもがなですが、それに至るまでも、「真実はどうなっているんだろう?」と気になって、退屈せずに見ることができました。映画館によってはまだ上映しているところもあると思うので、暇だったら観てみてください。

とても短くなってしまいましたが、以上で初回のブログリレーは終わろうと思います。時期は未定ですが秋新歓を行う予定があるので、「入り時を見失ったけどちょっと気になるな」って方は、映研のツイッターを覗いたりしてみてください。時期が決まり次第、告知します。

春新歓ブログリレー#4

初めまして、今度の4月から2年生になる映研の古川です。

この記事は新歓ブログリレーということで、主に新入生に向けて書いているものです。なのでおすすめの映画を紹介するのに加えて、新入生へのアドバイスも簡単に記しておこうかと思います。

さて、今年北大に入学することが決まった皆さんは、今すごく不安を抱えているんじゃないでしょうか。大学の授業はどうなっているのとか、友達できるかな、とかとかとか。はっきり言っておきましょう。オンライン授業は一部を除いて集中出来ないし(個人差アリ)、友達も全然できません(個人差大アリ)。現に僕は前期にクソつまらないドイツ語の単位を落とし、北大にきてからまともな友人は1人もできていません(一応ドイツ語は後期に取り直したし、同高の友人が数人いますが)。つまり何が言いたいかというと、授業は家で受けることになるし文化祭などの大学によるイベントがない(今年はわかりませんが)ので、自分から行動しないとなにもなくただ時を浪費するだけになってしまいがちだということです。学校に行かなくていい分の時間は友達作りに使うもよし、何かやりたいことがあるならチャレンジしてみてもいいと思います。光陰矢の如しと言いますが、僕はこの一年、新たな人間関係も構築せず、一人寂しくゲームと映画を嗜む毎日でした。つまらなかった訳ではないですが、もしこのブログを読んでくれているあなたが新入生だったら、僕のようになってほしくはないです。特に北海道以外から来る新入生は友人が0からのスタートだと思うので、映研に入ってくれたらもちろん嬉しいですが、そうでなくとも早めに何かしらのサークルや部活に入ることを強くお勧めします。今思うと、一年前大学の始業が遅くなって「ゲームいっぱいできるじゃん!」と馬鹿みたいに喜んでいた時に、こうなる現状を予知できたらな、とか考えてしまいます。

マイノリティリポート

と、ここで予知という話が出てきましたね(むりやり)。それではお勧め映画のご紹介です。今回僕がお勧めしたいのはスティーブンスピルバーグ監督の「マイノリティリポート」という作品です。夢で未来の犯罪を見るようになった「プリコグ」を利用して犯罪を阻止しようとする警察と、プリコグを神のように崇めその力にあやかる近未来社会を描いたSF映画になります。トムクルーズ演じるジョンはプリコグの見たイメージを取り出し、未来の犯罪を特定、阻止する警察官です。毎日のように仕事をしていると、ある日プリコグがいつもとは違うイメージを見て、何かが起こる、というのが話の始まりになります。その時ジョンはどうするのか、そして題名にもなっているマイノリティリポート「少数報告」とはなんのことなのか、最後まで目が離せません。またこの作品は、起こる前だが確実に起こる犯罪を罪に問えるか、プリコグに頼って安全になった社会は良い社会と言えるのか、といったふうなちょっと考えさせられるテーマも含んでいます。自粛でうんざりした気持ちをほぐしてくれて、少し頭の体操にもなる、大学生になる前にぜひ見てほしい一本です。

短めに終わらせるつもりで書いていたのに、いつの間にかたらたらと駄文を書き連ねてしまいました。最後にはなりますが、北大映研には映画を撮りたい人、映画に出たい人、映画が好きな人、良くわからない人など、いろんな人が所属しています。新入生の皆さん、すこしでも興味があったら映研のTwitterに連絡してくれると嬉しいです。いろんな学部の人がいるので、履修登録のことなど悩ましいことがあれば聞けると思います。ここまで読んでくださってありがとうございました。