2023年度春新歓ブログリレー#5

IMG_11931年の安住です。
私が今回紹介する映画は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ティモシー・シャラメ主演の『DUNE 砂の惑星 part one』です。

本作は、あの『スター・ウォーズ』や『ナウシカ』に多大な影響を及ぼしたとされるハードSF小説の金字塔『デューン砂の惑星』を実写映画化したものになります。
このあまりに長大で複雑な英雄叙事詩は、その内容の難解さや精緻を極める設定、秘められた強い哲学性から、映像化が困難な題材として長く語られてきました。(実は過去に2度、実現しなかったものも数えると3度映像化が試みられ、しかし各々芳しくない結果を残しています。)

そんなパンドラの箱を、『メッセージ』や『ブレードランナー2049』で高名なドゥニ監督がハリウッドの貴公子ティモシー・シャラメを抱えてついに開張してしまったのです!

そんな『DUNE』ですが、粗筋自体はごく単純な貴種漂流譚になります。
西暦一万年の遠未来、レオ・アトレイデス侯爵は宇宙一価値のある物質「メランジ」の唯一の供給源である惑星アラキスの統治を宇宙皇帝から命じられます。しかしこれはアトレイデス家と敵対するハルコンネン家と結ぶ皇帝の罠であり、アトレイデス家が彼らの襲撃により危機のさなかに陥るなか、レオの後継者たる主人公・ポールは砂漠へと逃げ延び、そこに暮らす先住民フレメンと交わりながら血みどろの紛争への勝利を目指すことになる…という物語です。

筋書きは単純ですが、まず目を引くのは大胆に描かれた未来世界の有様です。想像も及ばぬ遠未来を舞台としながら、そこに生きる人類が形造る社会の構造は中世西洋そのもの。しかし、反重力装置や「シールド」と呼ばれる防具、昆虫の繭のような形をしたあまりに巨大な宇宙船など、どう見ても現代科学を超越した先進文明の所産があちらこちらに登場してくるのです。
またそれは、よくSF映画で描かれがちな過発達の機械文明ではなく、知性機械との壮絶な全面戦争を経たのちそれへの反省から形成された、人間の固有に持つ精神的能力を充実・拡張することに重きをおいた高度精神文明ともよぶべき異質な代物です。
これらをふまえれば、ドゥニ監督の絶妙な美術センスも相まって創り出されたこの作品世界は、明らかに我々の生きる現代社会と地続きではないと思わせられる数々の視覚的・非視覚的要素が散りばめられ、より集まって構成されたものといえます。

これに関連して述べるべきは、本作を象徴するがごとき斬新な戦闘シーン。
なんとこの作品に登場する戦闘員らはみな、まるで古代の戦士のように刀剣を携えてお互いに斬りつけ合い闘うのです。西暦一万年だぞ、何やってんだこいつら。
というのも実は、先述した防具「シールド」はボタン1つで瞬時に装着者の身体全体を覆い、高速で干渉する物体を遮断する電磁膜であり、歩兵から王侯までこれを広く装備したこの世界においては現代でいうところの銃火器がほとんど無意味となっているのです。そのため戦闘員たちはみな刀剣を片手に握りしめ、「遅い」斬撃を食らわせて敵のシールドを通し、絶命させるのです。
原作小説の醍醐味ともいえるこのへんの斬新な設定+抜かりのない理屈づけを、優れたデザインと最新の映像技術を余すところなく用いて3次元に落とし込んでいるさまはまさに快感の一言に尽きます。

ここまでは半分原作小説の賛美のようになってしまいましたが、この映画が一本の「映画」として優れているところは、原作ストーリーの緻密な再構成と圧倒的な映像・音響効果にあります。
特筆すべきは、見るものの脳髄を震わせるような奇妙さに溢れながらも堂々たる威風と洗練された美を尽くした美術造形の数々です。
先述しましたが、巨大な繭のような形の宇宙船や蟻のような装甲を纏った兵士、砂漠の中にそびえる幾何学的構造の城塞など、登場する全てが新鮮ながらも現実感をともなった絶妙なデザインをしています。
ドゥニ監督特有の荘厳な風景映像の多用は今作でも健在で、森林・海辺・宇宙空間・そして砂漠と、実写映像と美麗なVFXを巧みに組み合わせた映像が全編を通して流れ続ける…壮大なSFドラマに監督の作風がこれ以上なくはまった良い例といえます。
さらに音響も素晴らしい。耳に残るメインテーマをはじめとして、“House Atreides!”の掛け声とともに砂風のなか鳴り響くバグパイプマーチに彩られる兵隊行進のシーンや、腹の底ががうずくような重低音で奏でられる儀式曲を伴う皇帝直属軍の整列シーンは圧巻です。
そして、もと群像劇のスタイルであった原作小説を主人公ポールの物語へと推敲し、古典的な英雄叙事詩として一貫した脚本も見事です。

長々と書いてしまいましたが、緻密な設定を基盤とする独特の世界観やそのもとで展開される古風な人間ドラマは、刺さる人には本当に刺さると思います。(逆に言えば、人によっては冗長だと感じる作品かもしれません)
反重力装置を使い砂上に音もなく降り立ち、湾曲した長刀を構えて主人公の下へにじり寄る皇帝直属の精鋭兵たち。主人公を護る勇猛な戦士は、短剣を掲げて王子への忠誠を誓いつつ薄らぐ電磁膜を身に纏い、たった1人で働き蜂のごとき兵士の群れへと立ち向かっていく…
何もかもが新鮮で圧倒的な作品です。打ち震えるような映画体験をしたい人は、ぜひご覧ください!今年続編も公開だよ!
(実現しなかった映画化企画を辿ったドキュメンタリー作品、『ホドロフスキーのDUNE』もおすすめです)

2023年度春新歓ブログリレー#5」への1件のフィードバック

  1. 未来の科学技術で、物理攻撃しか通らなくなる設定は「鉄血のオルフェンズ」でも採用されていましたね!科学技術の未来性と、社会の前時代性を掛け合わせたSFはいつの時代も本当に面白いです!

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