『八仙飯店之人肉饅頭』レビュー(池田)

完全ネタバレ

八仙飯店之人肉饅頭(原題 八仙飯店之人肉叉焼包、英題 The Eight Immortals Restaurant: The Untold Story)

1993年香港

監督:ハーマン・ヤオ

脚本:ラオ・カムファイ

製作:ダニー・リー

撮影:ツォ・ワイケイ

音楽:ウォン・ボン

出演:アンソニー・ウォン、ダニー・リー、ラウ・スーミン、シン・フイウォン、エミリー・クワン、パクマン・ウォン、エリック・ケイ、ラム・キンコン他

あらすじ

1986年マカオ。海岸に腐乱した人間の手足が打ち上げられた。警察の捜査で行きついたのは、中華料理店の経営者ウォン(ウォン)。彼は抵抗と黙秘を続けるが、連日の取り調べと囚人からの暴行に耐えかね、ついに自白。恐ろしい真実を語る。

レビュー

感想を書こうかずーっと迷っていた作品。中国返還前の香港で生まれた衝撃作。殺した死体の肉を饅頭にして売るというプロットはおろか、実話を基にしたというのがすごい。香港猟奇ホラーの金字塔といえる。主演を務めたアンソニー・ウォンは、その演技から1994年度の香港電影金像奨(香港版アカデミー賞)で主演男優賞を受賞した。(こんな映画で取れるのがまた怖い)

本編が開始していきなり、麻雀の賭けをめぐって男2人がケンカ。主人公の男は相手を叩きのめし、灯油をかけて火をつける。オープニングクレジット前でもう悲惨。

場面変わって海岸。腐乱した手足が発見され、警察が捜査にやってくる。ここでメインとなるのが、やたらノリが軽い刑事4人組。まるでバラエティのコントのようなやり取りを終始繰り広げる。映画の凄惨さを和らげているつもりなのだろうが、いかんせんスベっている。彼らのボスの警部役は本作プロデューサーのダニー・リー。いつも娼婦を連れている。紅一点の刑事は警部に惚れており、アプローチするもまったく気づいてもらえない。ストーリーに関係ないラブ要素。

マカオの一角にある料理屋「八仙飯店」。豚を解体する、坊主頭にメガネの大男。彼が主人公のウォン。挙動、言葉、態度がいろいろヤバい。職を求めてきた男をわずか10秒の面接で雇う。繁盛しているのに店の権利を手放したがっているが、前店主の署名がないため売却できない。一方警察では、中国本土から八仙飯店店主の捜索願が届く。BGMがホンワカしている。

主人公は賭け麻雀が好きで、いつもイカサマをして勝っているが、新しく雇った男に見られてしまう。ある夜、彼は男を伝票刺しとお玉で殺害。死体を解体して肉を肉饅の具にして販売する。饅頭の調理工程はしっかり見せる。骨はゴミ袋に入れてポイ。手際はいいが、たぶん手を洗ってない。その人肉入り饅頭を客は食う。

相変わらず警察には捜索願が届く。海岸の手から採取された指紋から、被害者は八仙飯店前店主の義理母と判明。八仙飯店に警察が調査に来る。主人公は愛想よく振る舞い、饅頭をサービス。署に戻った刑事たちは実に美味そうに饅頭を食べる。八仙飯店では第二の犠牲者が出る。主人公は警察に「本土から手紙がよく来る」と証言した女性店員を強姦し殺害。○○○に箸を刺すという鬼畜の所業。不快感しかない。

依然として警察パートはグダグダだが、八仙飯店に関する不可解な事がいろいろ分かってくる。今度は警部が直々に飯店に乗り込み主人公を尋問。しどろもどろな態度が怪しまれ、主人公は国外逃亡を図るも、張り込んでいた刑事と出国直前で派手な大立ち回りを演じた末に逮捕される。

前半のほのぼのした感じとは打って変わって、刑事たちは取り調べで主人公を殴る蹴るの暴行。完全にリンチ。主人公は隙をついて、集まっていた報道陣に痣と傷を見せ、警察は大バッシングを受ける。怒った警察は彼を前店主の弟がいる刑務所に強制収監。警察の発想が鬼である。囚人たちからも壮絶なリンチ(一人だけリンチに加わらない囚人は壊れたメガネを直すなどメッチャいい人)。

耐えきれず主人公は自殺を図る。鉄板で手首をギコギコ、そして血管を噛みちぎる。実にグロい。そこまでやったのに死にきれず、病院に搬送されて再び刑事たちから過酷な尋問。彼に暴行を振るわれた看護師は彼の背中に水を注射。水ぶくれがたくさんできて、仰向けになると激痛が走る。「人権」という概念がない。

寝かせてもらえない主人公はついに自白。ここが本作のハイライト。前店主一家皆殺しの回想シーン。賭け麻雀の支払いがもつれ、主人公はブチ切れ。一家全員縛り上げ、中華包丁で惨殺。その内5人は幼い子供で、もう見ていられない。子役の成長に支障をきたしたのではないか。死体は解体し饅頭の具にする。映倫の規定に引っかかったのはこの場面のせいに違いない。真相を知った刑事たちは嘔吐。唯一食べなかった警部は「食べなくてよかった」と他人事。実刑が確定した主人公だが、誰も彼を裁けなかった。獄中で手首を空き缶のタブでえぐって自殺したからである。そしてエンドロール。後味が実に悪い。

アンソニー・ウォンが演じる主人公の恐ろしさとインパクト、これに尽きる。1996年にはアフリカでエボラに感染した男が香港で菌をまき散らすホラー『エボラ・シンドローム』で主演。猟奇的な役ばかりと思ったら、『インファナル・アフェア』『メダリオン』『頭文字D』『ハムナプトラ3』など、ドラマやコメディにも多数出演している。内容も演出も酷い映画だが、カルト的に語り継がれる伝説の作品。どうでもいいが、出国直前のシーンでドラえもんのぬいぐるみが映っている。たぶん偽物

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